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第2-20節 ダメダメ、絶対ダメ!

 ゴールデンウイークを前にした4月25日の金曜日。

 係長と歩夢がたまたま外部団体との協議会で不在の午後、主任と一緒に留守番をしていた貴子ちゃんに隣りの健康係の係長から声が掛かった。

「福祉係の会計年度さん、悪いんだけど、この袋詰め手伝ってくれると助かるわ?」

 見ると係長以下3人の職員が机いっぱいに書類と袋を並べて封入作業をしている。

「ゴールデンウィーク前に郵便局に持ち込みたいのよ。

 申し訳ないけど、お願いできる?」

 キーボードを叩いている主任に目をやると、小さくうなずいた。

「大丈夫です。今はファイルの整理をしていただけですから」

 パソコンの画面を閉じ、椅子ごと隣りの係に体を移す。

「予防接種の案内と受診券なんだけど、2,000世帯に一斉に送らなきゃいけないから、大変なのよ」

 係長の机の脇には、空の段ボールが積まれている。

 主任の男性が支持を出した。

「年度さん、助かる。

 流れ作業なんだけど、ぼくが、町長名の通知と予防接種の案内ちらし、受信先の医療機関のリスト、それとクーポン券、この4つが入ってることを確認したらあなたに封筒を流すから、その封筒を閉じてこの段ボールに入れてくれる?

 いい?」

「わかりました」

 段ボール箱を引き寄せてから主任の隣りに割り込み、係長の机から始まり各係員の机の上を時計周りにぐるっと回って来た最後の封筒をひたすら閉じ、ある程度まとまると段ボールに入れる。

 2,000通の封入に2時間はかかっただろうか。4時半を過ぎ机の上の封入物の山がほぼなくなると、職員の肩の力が抜け、スピードが緩くなった。

 歩夢と福祉係長が戻ってくると、健康係長が頭を下げた。

「ユリエさん、おたくの年度さん、お借りしました。

 でも、助かったわ。あとは郵便局に持ち込むだけ。

 年度さんも、ありがとうね!」

 2人の係長が代わるがわる頭を下げた。


 隣りの係が係長以下全員で段ボールの山を台車に載せて郵送業務担当の総務管理課に運びに行った後、ぶすっとしたままの貴子ちゃんに歩夢が声をかけた。

「何か、あった?」

 黙ったまま水筒のコーヒーを一口すする。

「年度さん、年度さんって、あたしは図工の紙粘土じゃありませんから。

 ちゃんと名前があります!」

 笑いながらうなずく歩夢。

「そうでしたか、そんなことがありましたか、、、。

 北条さんは、短気かな?」

 口をすぼめる貴子ちゃん。

「あたしは任期1年ですから、もともと短期です。

 会計年度は、もともと短期!」

 笑いがおさまらない歩夢。

「わかったよ、わかったよ。

 みんな、短気なんだね? 気が短い」

「違いますよ、任期が短期」

「人気が短期?」

 ますます口をすぼめる貴子ちゃん。

「人気なんて、最初からありません!

 自分の気持ちに逆らえないだけです。

 もう、歩夢さんったら。

 からかうのはやめてください!」

 笑いをかみ殺す歩夢。

「わかった、わかった。

 お詫びに、今日、帰りに夕食おごるよ。

 大漁亭。

 しらす丼が、とっても美味しいんだ」

「もう、歩夢さんったら、ヒトの弱みにつけ込むのね?」

 膨れた頬が元に戻る粘土さん。さすが苦労人、凹んでも戻りが早い。

「失礼しました!」

 そう言って、右目をつぶった。


 歩夢が正面玄関で貴子ちゃんを待っていると、イブが一緒について来た。

「おや、いらっしゃいませ?」

 歩夢が先に声をかけると、胸を張る経営学博士、28歳。

「ボディガードです。

 年頃の未成年女子を、未婚の男性と2人だけでマッチングさせるわけにはいきませんから。

 県の青少年保護育成条例違反がないか、確認します」

 160センチを見下ろす172センチ+ヒール5センチ。

「何言ってるんですか。シラス丼が目当てでしょ?

 それに、ぼくがもう売れてるのは知ってるじゃないですか!」

 頭を掻くイブに、慌てる貴子ちゃん。

「北条さん、心配しないで下さい。

 ぼくたちは同期だから、何言っても大丈夫なんです」

「ときどき、動悸〔同期〕息切れ、しますけどね?」

 笑う2人に、貴子ちゃんが目を見張る。

「まあ、うらやましい。

 何でも言えるなら、あたしも同期会作ろうかな?」

 貴子ちゃんを真ん中にして右に歩夢、左にイブと、3人並んで坂を下りる。

「チャパリトくんがいるじゃん。

 彼、素敵よね?」

 イブが水を向けると、貴子のボルテージが上がる。

「イブさん、ダメですよ、後輩に手を出しちゃ!」

 笑い出す歩夢。

「北条さん、大丈夫。

 確かにイブさんは年下の男の子が好みだけど、もう売却済みだから」

 のけぞる貴子ちゃん。

「え~っ、うらやましい!」

「ヒトを中古マンションみたいに言わないの!」

 イブが、手を伸ばして歩夢の脇腹に猫パンチを入れる。

「ほんとですか?

 お相手は、誰ですか?」

 顔の前で右手をヒラヒラするイブ。

「加山万汰議員」

 代わりに答えた歩夢をイブが睨む。

「まあ、素敵!

 格好いいなぁ。

 あたしもアプローチしてみようかな~?」

「ダメダメ、絶対ダメ!」

 イブの右手が貴子ちゃんの左腕をつかんで激しくゆすった。(つづく)

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