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第2-18節 議会でも問題になってる

 その日〔4月24日〕の午後4時半、イブが机の上の書類を片付け始めていると、加山万汰議員がやってきた。

 万汰議員はまだ任期3年目、27歳の若い議員だけれど、今年1月の町長選挙の時に対立候補の牛目誠の参謀役として名を()せた人で、町のキーマンの1人と目されている。

 ダークなスーツに身を包み、ネクタイはイタリア製だろうか、カラフルなのにそれでいて上品だ。

 ただ、ワイシャツの襟から髪の毛がはみ出ているところが、ちょっとラフな印象を与えている。

 カウンター前で1度立ち止まると、イブに視線を送ってから入室した。

「こんにちは。

 失礼します」

 所長以下、職員が立ち上がって迎える。

「こんにちは。いらっしゃいませ」

 所長が緊張して、お店の番頭のような挨拶をした。

 笑顔の万汰議員。

「お忙しい中、申し訳ありません。

 実は、ちょっとお話ししたいことがあって、来ました」

 もう一度イブに視線を送ると、うなずくイブ。

 係長が課長席の左隣りに椅子を運ぶと、頭を下げてから座った。

 2人を取り囲む係長とイブ。

 係長が所長の前、イブが万汰議員の脇に陣取る。

 隣りの係員が立ち上がって、お茶を入れに行く時に聞いた。

「コーヒーの方が、よろしいですか?」

 目尻が下がる議員。

「ありがとうございます」

 イブが補足。

「砂糖抜きで、ミルクを多めにね?」

 顔を見合わせる所長と係長。

 イブが、自分のげんこつで頭を叩く真似をした。

 笑いながら湯沸かし場に向かう係員。

「さて、お話しとは?」

 改めて、所長が聞いた。

「ここだけの話にしてください。

 実は、、、」

 3人が揃って顔を近づける。

「議長宛に、変な手紙が来ました。

 これです」

 鞄からA4版の紙を取り出して、3人に見せた。

「『美しい日本の文化を守る会』からです」

「えー!」

 弾けるようにのけぞる3人。

 唾をのむ所長。

「して、何と?」

 椅子に座り直して背中を伸ばす万汰議員。

「彼らの主張は、こうです。

 1、外国人労働者が増えつつある。

 2、そのことで、前途有為(ゆうい)な日本の青年たちの雇用が奪われ、美しい日本の文化と伝統が破壊されている。

 3、だから、議会は、議員立法で取り締まる条例を制定せよ。

 と、まあ、こんな感じです」

 コーヒーを運んで来た職員に一礼してから、一口すすった。

 うなずく一同。

「おや、驚きませんね?

 なんともありませんか?」

 半歩前に椅子をずらす所長。

「実は、同じような脅迫状があちこちに送られていて、さきほど漁業と農協の理事長が相談に来たんです。

 こちらも対応に苦慮しています」

 うなずく万汰議員。

「なるほど。

 で、その脅迫状は、誰からなんですか?」

 所長が机の上のレターケースの中から黄色いクリアファイルを取り出し、中に入ったコピーを見せた。

 黙読する議員。

「文章の書きっぷりが似てる。

 発信人が『美しい日本の職場を守る会』。

 名前も似てますね?

 あっ!」

 叫けびながらのけぞる。

「所在地が、一緒じゃありませんか!」

「千代田区千代田1丁目1番地」

 イブが静かに応える。

「イブさん、なんで知ってるんですか?」

 驚愕する議員。

「日本で1番たくさん戸籍が置かれている場所、皇居の所在地です」

 頭を上下する2人の上司。

 ゆっくり唾を飲んでから、万汰議員が続けた。

「なんとなく、わかってきました。

 実は、ある会派の議員の中に、しばらく前から同じようなことを言い出した人がいるんです。

 そうこうして、これが届いた。

 議長も黙過できなくなり、議会運営委員会で審議したところ、町の外国人不法就労問題を調査する特別委員会を作るしかないかなと。

 ついては、正式に委員会を発足させる前に、ぼくに下調べしてくれと言うです。

『外国人問題なら、JICA(ジャイカ)〔国際協力機構〕の経験がある国際派の君が良かろう』と。

 議長から頼まれたらイヤとは言えません。

 でも」

 議員が急に声を低くし、3人に頭を寄せるようポーズした。

「何か新しいことがわかったら、ぼくに内々に知らせてもらえると助かります。

 でも、このことは、議会で正式に話が出るまで内緒にしておいてくださいね?」

 こっくりする3人。

 ひと通り話し終わると、カップに残ったコーヒーを飲み干し、万汰議員が立ち上がった。

「美味しかったです。

 それでは、よろしくお願いします」

 一礼して去ろうとする議員を、カウンターの外でイブが捕まえた。

「このことは、また、話しましょう。

 どうも、他にもありそうなの」

「わかった。

 また、後で」

 イブにウインクすると、颯爽と研究所を後にする。

 係長から質問が来た。

「お二人は、お付き合いしてるんですか?」

 胸を張るイブ。

「町には、個人情報保護条例が施行されています」

 頭をかく係長。

「ぼくにも地方公務員法上の守秘義務があるから、外に漏れる心配はない」

 さらに胸を張るイブ。

「万汰議員について、業務上知り得た秘密を漏らすことはできません」

 笑いだす所長。

「今さら、何を言ってるんだい。

 2人が妙に親しいことは、議会事務局でも有名ですよ」

 舌を出して、げんこつで頭を叩くイブ。(つづく)

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