第2-15節 海外人材の受け入れ
「チャパリトくん、県の産業労働局から電話だ!
回すよ」
4月18日の金曜日、午前9時。
庁舎2階、観光産業課産業係の御形係長が、隣りの観光係の机にいるチャパリトに声をかけた。
チャパリトはインバウンドなどの観光受入業務が本務だけれど、外国人労働者の海外からの受入に関して、隣りの産業係の併任辞令をもらっていた。
小さな役場では、1人の職員がいろいろな業務を兼任しないと回っていかない。まさに、中小企業と同じ職員体勢だ。
事務職員がスコップを持って現場に出ることもあれば、技術職員が物品代金支払の支出命令書を書いたりする。
「はい、観光産業課のヒガです」
ヒガという氏は、もともとは100年も前に日本からペルーに入植したご先祖様の氏だし、日本で生れて日本の学校教育を受けてきたチャパリトと話せば、電話の相手が日本人じゃないとは、誰も思わない。
「こんにちは。人材確保支援グループの佐々木です。
メールで書類を送ってもらいましたが、いくつか直接確認したいことがあって電話しました。
今、大丈夫ですか?」
県の佐々木が言うのは、来年度に本格実施予定の高度外国人材の受入支援施策について、昔JICAがあった深井町に試験的に実施してもらい、その予測効果をあらかじめ確認しておきたいということだ。
「来年に向けて考えている『高度外国人材』、例えば、技術・人文知識・国際業務・高度専門職に対する受入費用の3分の1補助、まあ、50万円の上限がありますけど、そちらの町では、ニーズはありそうですか?
紙に書けないこともあるかと思って、電話をしました。
さしつかえない範囲でかまいませんから、率直に伺えれば?」
左手の受話器と一緒に頭を下げるチャパリト。
「パイロット自治体に選んでいただいたことは、蝶々も大変感謝しています。
こちらの町には生産工場や大学などの高等教育機関とかがあるわけではありませんので、大きな事業所といえば、やはり漁協と農協です。
両方に話をしてみましたところ、漁協は積極的で、農協は半々というところでした」
佐々木が質問した。
「その違いは、何なんでしょう?」
チャパリトが机の上のコーヒーを一口すすった。
豆はグァテマラ。少し酸味があるけれど、フルーティで香りが良く、コクがある。
「漁協は、やっぱり長年のJICAの歴史があって、外国人の受入について抵抗感が少なく、また受け皿も大きいようです。
それに、世界中に散らばっているJICA修了生が、今では母国の指導的な立場にいますから、そうした方々が日本に再入国して高度人材として活躍する余地も、大いにあるんだと思うんです」
電話の向こうでうなづく佐々木。
「でも、農協の方は、漁協ほど経験値がありませんから、ゼロではありませんけど、ちょっと判断がつかないと。
実際に農業分野で、日本の先進的農業技術に対応できる方が、どれほどいるのか。
来てもらってから『これじゃ仕事にならない』ってことになったら、そちらも困りますよね?」
ため息を漏らす佐々木。
「そうなんですよ。
日本の現在の産業現場を、どれだけ知った上で来てもらうのか。
日本語の壁もある。
外国で事前の説明会が開けるわけでもありませんから、結局、日本にすでに住んでいて、日本の現場を知っている人を採用するとなると、パイは小さくならざるをえない。
ただ、翻訳や通訳業、教育分野なんかは、かなり受容枠があると思いますから、もう少し丁寧に施策を練ってみたいと思います。
いずれにしても、深井町さんには、4人、最大200万円の補助を用意してありますから、有効に活用していただけると、こちらもうれしいです。
よろしくお願いしますね!」
実際に握手することはできないけれど、受話器をがっちり握りなおす2人だった。(つづく)




