2-2-1 闇の眷属I
トオちゃんの持つ杖の先端に埋め込まれた宝石に、光が宿った。
その光景には見覚えがあった。
トオちゃんの弟子である、アスカが魔法を、光魔法を発動しようとした時と同じだった。
だけど、どうやらまだ弟子は師匠の足元にも届いていないらしい。
あれだけ長い時間のタメが必要だったアスカと違って、トオちゃんのそれは、一瞬の事だった。
ステッキを操るかのように、杖を指先でクルリと回す事によって、宝石に溜められた光球を上に飛ばすトオちゃん。
上空に上がった光球は、重力に従い上昇速度を落としていき、そして一瞬の静止の後に、落ちる。
そしてトオちゃんは杖を上に振りかぶり、戻って来た光球でテニスをするかのように、打ち込んだ。
(なっ!?)
打たれた光球は俺に向かってダイレクトに飛ぶのではなく、一度地面に落ち、超回転をしつつそこに留まった後、顔面に向かって飛び跳ねた。
そして、光球は俺の顔面に直撃する事はなく。
「……スーパーノヴァ」
俺の全身を覆った。
☆ ★
……そしたらまあ、こうなるよな。
俺の身体はトオちゃんの光魔法によって、文字通り消滅した。つまり、俺はまた死んだって事だ。
こんな事言いたくないけど、正直死ぬのにも慣れたな。いや、本当にダメな事なんだけどさ。
それに、今回のついては死に方が良かった……というのもおかしな言い方だけど、今回は欠片も痛みを感じる事がなかったからな。
苦しむ事がなかった分、今までの死と比べると大分楽だった。
それにしても——
☆ ★
あまりにも一瞬の事過ぎて、何があったのかわからないけど、とりあえずわかるのは——
☆ ★
……前にトオちゃんが俺たちを助けてくれた時に放った光魔法をやられたって事だろうな。
「……なあ、そろそろ勘弁——」
☆ ★
ここはどこだ?
アンサー。
それはドームの中だ。
そこで問題。
俺は死ぬとどうなる?
アンサー。
復活します。
まるでゲームオーバーの後にチェックポイントからコンテニューするかのように復活……いや、それはちょっと違うか。時間が巻き戻るんじゃなくて、俺の身体が再構築されるわけだから、リスポーンって表現した方が良いか。
続いて問題。
俺はどこでリスポーンする?
アンサー。
——
☆ ★
これで何度目だ?
一瞬の熱と、脱力感と、無。
それが何度も何度もループしていた。
そのペースはずっと同じってわけじゃない。少しずつ最適化されていき、脱力感を感じる時間だけがどんどん短くなっていた。
そして、それに比例するようにして、熱を感じる時間が増えた。
『ああああああっ!?』
それは俺の悲鳴だった。
自分自身が叫んでいるってのに、どうしてそんなにも他人事なのかって? そんなの事、俺が知るか。
最初は欠片も感じる事がなかった熱が、少しずつ、少しずつ、数を重ねる事に大きくなった。
そして気が付けば、俺の意識と肉体は二つに分かれ、身体は熱と痛みに悲鳴を上げ続け、俺の意識は……そう、いつもの場所にいた。
「……変な気分だ。自分の悲鳴を他人事のように聞くなんて」
まるで牢獄の一室を思わせる部屋の、簡易的なベッドの上に俺は座っていた。
ベッドは眠る為、あるいは……いや、やめとこ。ともかく、座る場所じゃないけど、ここには椅子がないからな。とりあえずここに座っている感じだ。
『ああああああっ!!』
眠るにはあまりにも嫌なBGMだな。耳を塞いでもどこかからか聞こえてくる。音の発信源は……俺の中? まあ、元々これは俺の悲鳴だから。自分の悲鳴を聞かないようにするなんて、それこそ聴力そのものを切り捨てる他に方法なんてない。
耳を塞いだとしても、内部から響く自分の声が聞こえる……いや、伝わるからな。
この部屋で、ベッドの上で目覚めてからというのも、熱と痛みは感じなくなった。だけど、身体になんとも言えない違和感があり続けた。
それは少しずつ大きくなっていって、ずっと自分の悲鳴を聞き続ける今の状況以上に、恐ろしかった。
「……不思議だな。なんでこんなに冷静なんだろうな」
自分が今どんな状況なのか。それは半分くらい理解している。
俺はドームでトオちゃんに殺され、そしてドームでリスポーンをするのとほぼ同時に、もう一度殺されているんだ。
トオちゃんの魔力が尽きるまで終わる事のないデスループ。リスキルとかマナー違反過ぎるだろ。……まあ、普通はリスポーンなんてしないけど。
つまりだ。現実での俺がは、死と復活を永遠に繰り返すという、やばい状況なんだけど……何故か不思議とそれについて恐怖心はなかった。
……いや、ないわけじゃないかもな。むしろその逆。俺の無意識が俺の意識を守るために、あえてそういう感情を刺激しないようにしているのかも。
「とりあえず、このままここにいても埒が明かないか」
ひとまず移動しよう。
ここはこの場所に来るために通り過ぎるポイントの一つであって、つまりはただの入り口みたいなもんだ。
まあ、まだここに来た回数は片手で数えるくらいだから、その推察が外れって可能性はあるけど、多分近いと思うんだよな。
「おーい、エルー。いるのかー? 来たぞー」
始まりの部屋から出て、いつものロビーに向かいながら声を掛けてみる。
俺とエルは別に仲が良い間柄じゃない。
相手は明らかに格上の存在。怒らせたら確実にやばい相手だ。
だというのにこの気軽さ、まあ大丈夫だろ。
「……あなた、頭がおかしいんじゃないかしら?」
それ、俺も同感。
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