2-2-2 闇の眷属II
ロビーのソファーに座り、呆れ顔を向けるおっぱいオバケこと、エル。
俺は向かいの席に座るなり、直球を投げる事にした。
「なあ、エルって神様だったりするのか?」
「……あなた、やっぱり頭がおかしいみたいね」
コラコラ、そんな可哀想な奴を見るような目を向けるんじゃない。
「違うのか? だってここって俺の精神世界とか、そんな感じの空間だろ? 他人の心に侵入して、勝手に寛いでるなんて、そんな事神様くらいだろ、出来るの」
「……そうね。仮に私が神だとして、その神に対してその態度はいけないんじゃないかしら」
「無礼は家賃代わりってことで」
「……やっぱりあなた、頭がおかしくなったみたいね」
再び呆れた眼差しを向けてくるエル。まあ、正直言って自覚はあるけど。
「気狂いを自覚している気狂いほど、厄介な存在はないわよ」
「流石は神様。人生経験、いや神生経験が豊富なことで」
ここで飲み物を一口飲みたい所なのだが、残念ながらここにそんなものはありません。
「なあエル。神様パワーで飲み物とか出すことって出来ないのか?」
「……仮に私が神だとしても、敬うつもりは欠片もないみたいね」
「仮にエルが神様だった場合、考えようによってはエルが黒幕になるわけだし、そんな必要ないかなーって」
前にエルが言ってた事を推理に合体させると、エルが神様だった場合、俺がこの世界にやって来たのはエルのミスで、その謝罪とか補填として俺の精神世界に不法侵入し、何かしらの特別パワーを与える。とか、そういうお決まりがあるからな。
こちとら伊達に一年もクソニートしてないんだよ。そういう知識の蓄積は、おそらく賢者だ。
「……まったく。仕方がないわね」
そう言ってカウンターに目配せするエル。
「あっ、前にも会ったお姉さん」
そこに立っていたのは眼鏡を掛けた女性。確か俺の質問に対して、ほぼ全て答えられないと言っていた人だ。
エルのアイコンタクトを受け、小さく頭を下げた受付のお姉さんは持ち場を離れ、背後にある扉の先に消えて行った。
「あら、私の事は呼び捨てなのに、あの子の事はさん付けなのね」
「そりゃ、まだお姉さんに対しては感情がニュートラルなんで」
「あら、そう。つまり私に対してはマイナスという事かしらね」
「そんなまさか、呼び捨てなのは親愛の表れに決まっているじゃないですか」
「ふふっ、そう言いながら言葉使いを改めるなんて、随分と高度な煽りをするのね」
「アオッテマセーン」
ニコニコと柔らかい、いやむしろ妖艶な笑みを浮かべるエルと、そんな他愛もない話をしていると、ティーセットを乗せたトレンチを片手で、それも指三本で持っている受付のお姉さんがやって来た。
「お、まさか本当にあるとは」
トレンチを指三本で持ちながら、空いた手で手際良くカップの用意を進めるお姉さん。
「健太様、お砂糖の数はどうなさいますか?」
「えーと、それじゃあおすすめで」
紅茶なんてお洒落な飲み物を飲む機会なんて、今までなかったからな。普通がわからん。という事で、丸投げ。
「そういう注文はマナー違反よ。愛しの仁美ちゃんとデートする時には、そういう事は言わない事ね」
「……」
「あら、この程度で黙りになるなんて、やっぱりまだ子供なのね。ふふっ、お可愛い事」
「……この痴女が」
そんなにも谷間を強調する服を着ているんだ。きっと露出狂の痴女に違いない。
「あら、あなたには刺激が強過ぎると思ってこの格好をしているのだけど、あなたの許可が貰えたのならば、普段通り全裸でいようかしら」
なんですと!?
今こちらのお姉様はなんとお口に!?
「冗談よ。ファドール、彼の砂糖は二つでいいわ」
「了解しました」
「ファドール?」
「ええ、彼女の事よ」
エルの言葉に応えるように、俺に向かって会釈するファドールさん。
……ファドールさんか、随分と個性的な名前だな。エルは……まあ、胸がエルサイズだしな。
「それで? 今回は一体何のようだよ」
「あら、私が呼んだってわかっていたのね」
「そりゃな。自分の精神世界にダイブするなんて事、普通の人間には出来ないからな。お前が内部から引っ張ってくるしかないだろ」
精神統一とか、無我の境地とか、そういうのはごく一部の達人しか出来ないもんだ。
「それに、ここに来ようとした時には来れなかったからな」
前回は話の途中で無理矢理起こされたからな。その続きをしたくて挑戦したけどダメだった。
つまり、ここに来るのに必要なのは俺の意思じゃなくて、こいつの意思って事になる。
「今回に限ってはシンプルに親切心からよ。自分が今どういう状況にあるのか、一応は理解しているのでしょう?」
「……」
「ここでの沈黙は肯定を意味するわよ。外の状況を把握しているからこそ、そんなにも精神が荒ぶっているのでしょう? いいえ、現実逃避と呼ぶべきかしら」
外の状況。つまり、俺の身体に一体何が起きているのか。
……そうだよ。理解したくないけど、理解してる。
「あいつは、トオちゃんは俺の不死性を知ってる。その上で、完全に俺を殺そうとしているって事だろ」
「ええ、そうね。でも、それだけじゃないでしょう? もう、本当は理解しているのでしょう?」
「……」
二度目は言わないとばかりに、無言で笑みを深めるエル。
「……ああ。つまり、あの日……仁美の家で俺を暗殺したのは、トオちゃんって事だろ」
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