2-1-1 迷いI
お久しぶりです!
魔物とは言っても、手に残る肉を断ち斬った感覚。
命を殺した感覚が手に残っていた。
今までだって魔物を斬ってきた。
だけど、こんな感覚に襲われる事なんてなかった。
仁美と再会した事でいつのまにかあった緊張がほどけたって事なのかもしれない。
いきなりこんな異世界に招待されたんだ。自分じゃ冷静にいられているつもりだったけれど、実際は緊張していたのか。
仁美と会って安心した? 混乱していた頭の中から、元の世界での事、平和な日本での日常を思い出したのか?
(って、さっきからかもしれないばっかりだな)
今はこんな感傷に浸っている場合じゃない。
こんな危ない世界。手を血で汚さないと、せっかく生きていてくれた仁美を護る事なんて出来ない。
「よし」
俺は無理やり気持ちに整理をつけると、町に向かって走り出した。
魔物を一体倒したからか、身体が僅かに軽くなった気がする。
「なるほど。確かにレベルアップって感じだな」
魔物を倒す前よりも走力が上がっている気がするし、息も楽だ。
もっと手早く倒す事が出来ていれば、遭遇しなかった場合よりも早く町まで行けたかもしれないな。
それぐらい身体が軽くて、走るのが辛くない。
周囲に魔物の姿は見えない。とはいえ木々が多いせいで視界は良いとは言えない。
まあ、木々の隙間から奇襲されたとしても、レベル二になった今の俺ならどうにかなるだろ。
俺が何者かに殺されたのは夜の眠っている間だ。
いや、ドームを目覚めた時すぐに外に出たけど、太陽が全力で仕事をしていやがった。
死亡から復活までタイムラグは無いに等しいはずだ。
それなら俺が殺されたのは朝になってすぐって事になる。
どちらにせよ、あの町に俺を殺した犯人がまだいるって可能性は高い。
もしかすると仁美やトオちゃん、アスカがその何者かと戦っている最中かもしれないな。
町の中での戦闘か。アスカは多分戦力にならないだろうけど、仁美はこの世界の勇者様だからな。安心して良いはずだ。
ペースアップしたもののスタミナが切れる事はなく、町の前までたどり着いた。
「……平和そう、だな」
アスカと初めて会った門まで来たけど、戦闘音とか混乱している感じはない。
事態は収束したって事か?
町の中に入ろうとした所で、知っている人物を見つけた。
「あ、えーとトオちゃんだったよな?」
俺に向かって無表情を向けるのはアスカの師匠であり、仁美のパートナーであるトオちゃんだ。
俺を見て固まっているトオちゃん。よく見れば気持ち目を見開いているようにも感じる。
「……っ!」
ハッとしたように背負っていた杖を構え出したトオちゃん。
「ちょっ! 怪しい者じゃないぞ!? 仁美の旧友の高村健太だ!」
臨戦態勢になったトオちゃんに慌てて名前を言うものの、そういえば俺トオちゃんにちゃんと自己紹介した覚えないぞ!?
ファーストコンタクト以外何も話してないからな。
俺の名前どころか顔も覚えてないって事は十分にあり得るからな。
とりあえず敵意がない事を伝えるために槍を捨て両手を上げた。
(こ、これで大丈夫か?)
アンサー。大丈夫じゃないっぽい。
両手で持った杖を振るい、アスカの光魔法と同じような光球が空に向かって放たれていた。
「……ん?」
まるで花火のように空で弾けた光球。
これはどう見ても攻撃されたって感じじゃないよな……。
「えーと、トオちゃん?」
仁美のパートナーことトオちゃん。
容姿から予測出来る年齢は高校一年生とかそこらへんだと思う。
背は高いわけでも低いわけでもなく平均的で、髪型は茶色のボブカットだ。
表情の変化が乏しく、クール系の美少女なんだ。
それで今のは一体どういう意味なのか聞こうと思ったんだけど、だめだ、反応がない。
これはもうクールとかそういうレベルを超えてる気がするな。
もしかすると人見知りとかだったりして。
杖も背に戻していて臨戦態勢は完全に解いてくれている。
となるとだ。もしかすると今のは信号とかそんな感じか?
「トオちゃん! 健太君見つけたの!」
突然光と共に現れた仁美。
トオちゃんにそう詰め寄ろうとした所で俺と目が合った。
「健太君!」
気が付けば仁美はすぐ目の前にいて、いつの間にか抱き締められていた。
「ひ、仁美!?」
「あっ、ご、ごめんなさい。ついっ」
顔を真っ赤にして離れる仁美。
ちくせう、反射で声をかけるんじゃなかったな。もったいない事をした。
俯いてモジモジしながら、チラチラと見てくる仁美。
トオちゃんはそんな仁美の事を、欠片も感情を感じない顔で見つめていた。
「あの、健太君」
「ん? なんだ?」
視線を仁美に戻すと何やら真剣な顔になっていた。
「今までどこに行ってたの?」
「えーと、それはなんというか」
仁美にはまだ俺のリトライ能力について話していない。
だから何者かに殺されてのでドームに居ました。なーんて言っても理解されないわけで。うむ、困った。
「朝になって健太君を起こしに行ったら急にいなくなってるんだもん。それでその……不安になって」
手をぎゅっと握り締めて言葉通り不安そうな表情を浮かべる仁美。
仁美にとっても俺は久し振りに会えた元の世界の事を知る貴重な友人だからな。
どれだけ仲良くても、日本を知らないトオちゃんやアイちゃん。アスカや町長には言えない悩みとか話だってあるはずだ。
それに、仁美はこの世界じゃ勇者らしいからな。なおさら弱さを見せられいだろうしな。
「悪い仁美。ちょっと特訓しに森に行ってたんだ」
「特訓?」
「そっ。ほら、俺って弱っちいからさ。昨日だって仁美たちが来てくれなかったら今頃どうなってたかわかんないし」
俺はリトライ出来るだろうけど、アスカやアイちゃんは違う。
そもそもとして、もしもアイちゃんが死んでしまったら、俺のリトライ能力だって発動しないだろうからな。
だから俺自身死んでいたかもしれないんだ。
「そっか。ふふっ、健太君らしいね」
「は? 俺らしいか?」
「うん。健太君らしいよ。やっぱり偉いなー」
「なんじゃそりゃ」
俺らしいってのはもしかして弱っちい所がか?
なんか俺ディスられてる? なわけないか。仁美に限ってそんな悪口を言うはずがないもんな。
「そういえば仁美」
「ん? どうしたの健太君」
安心したように笑い、俺に背中を向けてトオちゃんと一緒に町の中に戻ろうとした仁美を俺は呼び止めた。
「俺が特訓している間に村で何か変わった事あったか?」
「ううん何もなかったよ?」
「……そっか」
「突然どうしたの?」
「いや、なんでもない」
不思議そうに首を傾げている仁美にそう返し、俺は二人の隣を通り過ぎた。
☆ ★ ☆ ★
「まったく。森の中にはまだ魔物がいるんだぞ! それなのに一人で特訓しに行くとか健太は馬鹿なのか!」
二人と一緒に仁美の家に戻ると、そこには不安そうな表情を浮かべたアイちゃんとアスカがいた。
俺の顔を見るなり一瞬嬉しそうに笑ったかと思うと、すぐに怒った顔に変わったアスカ。
男のツンデレに需要はあるのだろうか。
「えへへ。健太さんが無事に戻ってきてくれて良かったです」
俺のせいで少し遅くなってしまった朝食をトオちゃんも入れて五人で囲んでいるんだけど、俺の帰還を喜んでくれるアイちゃんに、怒っているアスカ。
二人の態度は見事に真逆だな。
「……むう。アイも少しぐらい怒っていいと思うぞ! 僕たちにそれだけ心配掛けたんだからな!」
「へえー、そんなに心配してくれたのかアスカ」
「なっ!」
ツンデレアスカ君は顔を真っ赤にしている。
俺はニヤニヤが止まりませんねぇ。
「ふふっ。随分と仲良いんだね」
「まあな。一緒にアイちゃんをドームから救い出すために共闘した仲だからな」
共に戦場へと行ったんだ。そりゃ友情も早く成長するってもんだ。
「それにしても仁美はそれだけで足りるのか?」
「足りるって何が?」
「いや、ご飯」
「……うっ」
俺の言葉に仁美の表情が固まった。
「ん?」
なんだこの空気。なんかまずい事でも言ったか俺?
「健太……お前……」
「け、健太さん……」
「…………」
ドン引きという言葉が似合う表情のアスカに、悲しそうな目をしているアイちゃん。
トオちゃんは無反応に見えるけど、なんとなく彼女からもジト目を向けられている気がする。
「美味しそうにたくさん食べる仁美を見てるの嬉しかったんだけどな。まあ食べないっていうなら良いけど」
「……嬉しい?」
顔を伏せながらプルプルとしていた仁美は震えを止めると、ちらりと俺の顔を見た。
「いやさ。俺の知ってる仁美はいつも小さい弁当箱でなんだか物足りなさそうにしてたからな。そんな仁美が満足そうに食べてる姿を見てるのが嬉しかったんだよ」
仁美は女子グループの皆と一緒にご飯を食べていたけど、みんなダイエットとか言って明らかに少なかったからな。
食べ終わった時に見せる物足なそうな顔を見るのがちょっと辛かったんだよな。
だけど昨日の仁美は本当に幸せそうに食べてたからな。見ていて本当に嬉しかったんだ。
「……そっか」
小さくつぶやいた後、仁美は席を立つとキッチンへと向かった。
「どうしたんだ仁美の奴?」
「……本気で言っているのか健太」
「何が?」
「あ、はは……なんというか、健太さんらしいですね」
「え、何が俺らしいの?」
「確かに健太らしい気がするな」
「いやいや、だから何が俺らしいんだ!?」
うんうんと頷くアイちゃんとアスカ。
なんで二人の心がこんなにも一致してるんだ!?
「お待たせ!」
俺が一人なんとも言えない気持ちになっていると、大皿を両手に持った仁美が戻ってきた。
「それじゃあお腹いっぱいになるまで食べよっか!」
満面の笑みで彼女はそう言った。
遅くなってごめんなさい!
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