3-9 選ばれし光IX 〜突入なんてしませんよ?〜
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「考えても仕方がない事を考えても意味ないよ!」
ずっと「うーんうーん」と腕を組んでいた仁美は、いきなり立ち上がるとそう宣言した。
「まあ……そうだな」
いくら考えても答えなんて見つかるわけがないんだ。
なんせこれは誰かが作ったテストじゃないからな。
思考に意味がないとは言わないけど、まあ無駄に近いな。現状。
「なあ仁美はいつも暇な時何してるんだ?」
「え?」
拳をグッと上げた状態でポカンとした顔を向ける仁美。
「……え?」
大切だから二回言いましたってか?
「いや、こっちで暇を潰せるものってないだろ?」
「あっ、そういう事ね。びっくりしたぁ」
そう言って手を胸を当てるとホッと息を吐く仁美。
いきなりどうしたんだ?
「うんん。そうだなぁー時間がある時はいつも刀の手入れをしてるかな」
「……刀?」
仁美はそう言ってトテトテと壁に向かうと、そこに飾られているそれを取って戻ってきた。
「うんっ。あたしの愛刀だよっ」
幸せそうな顔でニコッと言う仁美。
その笑顔には無限の価値があると思うけど……手に持ってるそれは刀。
……うっへへーい。
「こっちの世界に来て、選ばれし光だって言われて勇者みたいな扱いされて、旅をしてる時にこの子と出会ったんだ」
注意、これは人の話ではなく、刀の話です。
しかし、仁美の瞳は完全に恋する乙女だ。
……うっへへーい。
ん?
「勇者?」
「……あっ」
「……仁美?」
そっぽを向いてわかりやすく慌てている仁美。
「誤魔化しは許しまへんで」
「ご飯残さなかったから許してください」
「い・や・っ」
「……あう」
語尾にハートマークが付く勢いで拒絶してみたら、観念したのかうな垂れ、その勢いのまま座った。
「……ダメ?」
「だめ。ほらほら、せっせと話す」
「うー」
しばらくそうやって誤魔化そうとしていた仁美だったけど、俺の笑顔を見て諦めたのは、ため息を一つこぼした後渋々話し出した。
「あたしが旅をしてたのは知ってるんだよね?」
「ああ。それは知ってる」
「でね、その理由というのがね」
「まさか魔王退治だなんて言わないよな?」
勇者が旅をして目指すとすれば魔王の所だ。
この世界には魔獣がいるし、魔王もいるかもしれない。
……なーんてね。そんなテンプレあるわけないか。
「…………」
気まずそうに視線を逸らす仁美。
「……え、マジ?」
「……ん」
視線を逸らしたまま頷く仁美。
「……そっか。その、あれだ。お疲れ」
「うっ」
……う?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん」
「仁美!?」
突然大声をあげて泣き出し始めた仁美。
「ちょ、ま、え? なんで!?」
「本当に大変だったんだもーんっ!」
「……あー」
これはあれか。
勇者と呼ばれみんなの期待を背負って旅をしてたからか。
誰にも弱音を見せる事なんて出来なかったのかもしれない。
「よーし。仁美。いいぞ、とことん泣け。全部吐き出せ」
「……うっ、うう、うわぁぁぁーん」
泣き止みつつあった仁美にそう言うと、彼女は立ち上がりそして俺に正面から抱き付いた。
「……ヨシヨーシ」
無心で俺は仁美の背中を撫でた。
邪な考えはない。全部ポイだ。
「お疲れ様」
「うっ、うう、うーぅ」
おーおー、全然泣き止まないな。
まあでも、仁美のこんな姿を見るのってこれで二回目だな。
それしにても……仁美ってないわけじゃないんだな……うん。
☆ ★ ☆ ★
「あ、ありがとう。いきなりごめんね」
「いえいえ。むしろありがとうございます」
「な、なんでお礼?」
邪な考えを捨てる? 好きな子相手にそれは無理な相談っしょ。わーらいっと。
「まあまあ気にしないでください」
「それにどうして敬語なの?」
「まあまあ。気にしない気にしない」
「んー、わかったけど……」
語尾にけどが付いてる事からもわかるけど、納得はしてないみたいだな。
「落ち着いたみたいだな」
「……うん。ありがとね」
「おっ、素直だな」
「むー、あたしはいつも素直でしょ?」
「時と場合によるな」
「どういう事ー?」
よかった。どうやらこんなくだらない話をするぐらいにはスッキリしたみたいだな。
なんとなく顔色も良くなったように感じるし。
「それにしても[剣姫]って二つ名が世界に轟いてるってのは知ってたけど、まさか勇者様だったとは」
「な、なんで二つ名の事知ってるの!?」
「アイちゃんから聞いた」
「アイちゃーん!」
仁美ってこんなにテンション高い奴だったっけ?
……あ、良く見ると耳が赤いな。
昔の事でも思い出して照れてるとかかね。可愛い奴じゃのぉ。
「その感じだと二つ名に関しては不服なのか?」
「そういうわけじゃないんだけどね? その、なんというか」
「恥ずかしいと」
無言でこくりと頷く仁美。
「まあ二つ名って恥ずかしいよな……それも俺に知られるとか特に恥ずかしいだろ?」
「え?」
俺がそう言いながらニヤリと悪い顔で笑い掛けると、何故か顔を真っ赤にする仁美。何故?
「仁美? どうしたんだ?」
「え……その、知ってたの?」
「知ってたって何をだ?」
二つ名の事か? いやそれはさっきアイちゃんから聞いたって言ったしなー。
顔を真っ赤にしている仁美。つまりそれは仁美にとって恥ずかしい事って事だ。
うーむ、わからん。
「え、えとーその……違うのかな……」
ぼそぼそーっとしていて何を言ってるのかまったくわからん。
「仁美?」
「ううん。なんでもないよ!」
「そうか? まだちょっと顔赤いけど」
「見ちゃだめー!」
「うおっ」
旅の疲れとかで体調を崩しちゃったのかも思っていったんだけど、仁美は顔を真っ赤にすると慌てたように俺の目を塞いできた。
「やっぱり赤いぞ。風邪引いたんじゃないのか?」
「違うあたしは大丈夫だから。あー、抵抗しないでよぉー!」
「それはこっちのセリフだ。おとなしくしろ!」
何故そんな必死になって俺の視界を塞ぎに来るんだ?
ちらちらと見えるけど、仁美の奴顔が真っ赤だ。本格的に風邪でも引いたんじゃ。
「わ、わかったわかったから! おとなしくするからその間健太君は目瞑ってて!」
「なんでだよ」
「なんでも! いい?」
「……わかったよ」
理由はわからないけどまあ仁美がそうしてほしいならそうするか。
俺がおとなしく目を瞑ると、少し経ってから俺の目を覆っていた仁美の手がなくなった。
……ここで目を開けたら怒るかね。
……チラッ。
「すーはー、すーはー」
自分の胸に手を当てて深呼吸をしている仁美の姿が見えた。
仁美の奴、自分も目を瞑ってたら俺が本当に閉じてるのかわからんだろうに。
……はっ、俺の事を信頼しての行動なのか? 俺はその信頼を裏切ってしまったというのか!
くっ……まっいっか。無防備な仁美の顔をこのままチラどころじゃなくて、ガン見しよーっと。
「……ふぅ。健太君、もう目を開けても……」
「あ」
がっつりと目を合っていますね。うん。
「ども」
「健太君!」
せっかく元に戻っていた顔色をみるみるうちに赤くして、仁美は叫んだ。
この赤の理由はわかるぞ。照れだろ?
「ははっ」
「なんで笑ってるの!」
良かった。別に風邪を引いてるとかじゃないみたいだな。
「もう知らない! あたしお風呂!」
「……いってらっしゃい」
スタスタと歩いていった仁美の顔は赤いままだった。
「……お風呂……か」
鏡を見なくてもわかる。俺の顔も赤くなってるんだろうな。
「……このエロガキが」
って俺はもうガキって年齢じゃないのか。
あーあ、余計な事を考えたら余計に熱くなってきたな。ちくしょう。
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