2-13 再会XIII 〜進化〜
遅くなりました!
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獣の醜い悲鳴が森に木霊していた。
そう、声があった。
「ちっ」
俺が狙ったのは奴の首。だけど、ガードされた事でその一撃は首に届かず、奴の左前脚を飛ばすだけに留まっていた。
だけどこれで痛み分け。同じような場所を失うなんて気が合うな。嬉しくねえけど。
四足歩行にとって一本を失ったのはイコールで機動力の圧倒的低下だ。
奴の強さの一つである速力はこれで著しく低くなった。
多分アイちゃんたちが走って逃げた方が早いはずだ。
これで、二人は助かるな。
俺は死んでもどうせ蘇る。痛みにはなれないし、恐怖もあるけど、大丈夫。問題ない。仮説は仮説でも前例のある仮説。
もはや仮説とは言えないレベルだからな。
だから、目の前に迫る奴の右爪が突き刺さってもいいんだ。
「健太さん!」
悲痛にまみれたアイちゃんの声が聞こえる。
だけど、無駄だ。
奴の爪は俺の心臓を貫いた。
「はあああああっ!」
俺の意識が消える瞬間、涙を流したアスカが杖を振るっているのが見えた。
「ノヴァ!」
ああ、結果はもう見えないけど、あの威力だ。やったんだろうな。
流石は天才魔光師の一番弟子だな。
☆ ★ ☆ ★
「…………はぁ」
第一声がそれだった。
……どうも、健太です。
現在地、ドームの台座の上だ。
「やっぱり蘇ったな」
体に痛みはない。やっぱり復活するとダメージは帳消しになるみたいだな。
台座から起き上がろうと、両手を付けた時に気が付いた。
「……おお、腕まで復活するのか」
多分そうだろうとは思ってたけど、実際に治った腕を見るとこう、凄いな。
「さてと、行くか」
死んでから復活までのインターバルが短いって事はわかっている。
多分最後にアスカが放ったノヴァでボスは倒されてると思うけど、だからと言って俺がここでゆっくりしていい理由にはならない。
倉庫スペースに置かれていた剣を一本手に取って、俺はドームを後にした。
ボスと戦っていたあの空間まで走っても十数分は掛かるはずだ。
一秒でも、一瞬でも早く到達するために、俺は走った。
息が切れるまで走る。いや、息が切れても、酸素が足りなくなっても気合いで走ってみせる。
そんな意気込みで走っているんだけど、なんだこれ。
息が切れない? 身体、軽い。
まるで生まれ変わったかのように、全身に力が満ちていた。
それに俺ってこんなに足速かったか?
なんだろう。不思議な感覚だ。
今ならあのボス狼が相手でも対等以上に戦える。そんな気がした。
走る、走る、走る、走る。
俺は走り続けた。
やがて視界の奥に小さく見える二つの影、そして、それを追いかける一つの巨体を見た。
「アイっアスカ!」
「え、健太さん!?」
「なんで!?」
俺を見つけて目を丸めている二人だけど、驚くのは当然だけど、今はそれよりも俺の方が驚いていた。
巨体が見えた瞬間、アスカのノヴァで倒し切れなかったって事は察した。
流石はボスさんだ。高火力技の単発じゃやられてくれないかと、感心すらした。
二人を追い掛けているそれは三本の足のまま器用に走っていた。
だけど、そいつに首が無かった。
つまり、アスカのノヴァで首が吹っ飛んだのに死んでないって事か。なんて生命力、完全にチート、インチキだ。
だけど、不思議だ。
俺の心は酷く落ち着いていた。
「遅い」
すれ違いざまに光の刃でボス狼の残った左前脚を斬り飛ばした。
首を失っているからか叫び声はない。
唯一の前脚を失い、その巨体を引きずりながら停止するボス狼。
俺は振り返ると、そんなボス狼の背中に背後から飛び乗った。
首を落としても死んでいない。
それなら、心臓を潰すまでだ。
「はああああっ!」
ボス狼の心臓があるであろう場所に向かって俺は刀を深く、深く突き付けた。
そして、ボスの動きは止まった。
「……ふぅ」
深々と突き刺した剣から手を離し、俺はこっちに向かって駆けてくる二人の元に降りた。
「どどど、どうして健太さんあ、あれぇ? あ、だけど、でも、本当に良かったのですーっ!」
混乱した様子で大粒の涙を流し、俺に抱き着くアイちゃん。
そんな彼女の頭を俺は撫で続けた。
「なんで健太がここにいるんだ!? だって、だってお前さっきあいつに食べられてたじゃんか!」
動かなくなったボス狼を指差してそう叫ぶアスカ。
その目は真っ赤で、嬉しそうにしてくれていた。
……というかそうか、俺は喰われてたのか。……うぇ。
「うぅー、健太さんー」
俺の胸に頭をぐりぐりと押し付けてくるアイちゃん。
そんなアイちゃんにアスカが少し意味深な眼差しを向けていた。
って、あれ、これって普通に嫉妬してね?
「えーと、アイちゃん? そろそろ落ち着いた?」
無理やりにではなく、やさしーくアイちゃんを引き離す俺。
ふう、どうにか離れてくれたな。いや、別に抱き着かれるのが嫌ってわけじゃないぞ?
だけどほら、アスカの目が……あはは。
「うぅ、いきなりごめんなさいなのです」
顔を真っ赤にして俯くアイちゃん。ぐふふ、初心じゃのぉー。
「さてと、そんじゃ改めて町に向かうか」
「おいっ説明はなしなのか!?」
「まあまあ、それは後で落ち着ける時にな」
二人には結構ショッキングな現場を見せちゃったからな。
ちゃんと説明してあげるべきだろうな。
けど、その時は一体どんな反応をされるんだろうな。
想像を膨らませようと、思考を巡らせようとした瞬間だった。
何かが脳裏に引っ掛かった。
なんだ、これ、何かこう違和感がある。
俺はふと視線をあげ、周囲に視線を巡らせた。
「健太さん? どうかしましたか?」
「いや……なんか……」
気のせいなのか?
別に何か妙なものが見えるわけじゃない。
だけど、確かに残るしこり。まさかっ。
「アスカっ周囲に敵の気配はあるか!?」
「え?」
ボスを倒したからと言って安心してちゃいけない。
また狼の群れに囲まれたらもう銀光石はないんだ。俺一人で二人を守り切るのは難しい。
脳裏に引っ掛かったのはこの危険性の事か!
「……んー、いや、大丈夫。匂うのはこいつの臭いだけ」
「そうか……良かった」
目を瞑って真剣な顔をしていたアスカが顔を上げてそう言った。
……ん? 匂い?
探知魔法じゃないのか?
まあ、どっちにしても俺の心配は杞憂だったって事か。
「さてと、それじゃ行くーー」
突然足元が暗くなった。
それと同時に、俺と向かい合わせに立っているアイちゃんとアスカ、二人の表情が真っ青になっていた。
「健太さん!」
叫ぶアイちゃん。ふと、後ろに振り向くとそこには、二足で立ち上がっているボス狼の姿があった。
「……え?」
ああ、そうか。嫌な予感はこれだったのか。
奴らは、魔獣はやられるとすぐに消滅する。
だけど、こいつはまだ匂いを発していた、そこに、倒れ続けていた。
つまり、まだ死んでなかったんだ。
切断された腕の断面部分から触手のようなものがはえると、それは一瞬で俺の身体を拘束した。
脱出を試みてみるけど、だめだ、まったく動かない。それに、締まるっ。
「ふ、二人ともドームに向かって逃げろ!」
痛みを堪えて俺は叫んだ。
このまま絞め殺されればドームで復活出来る。二人がドームまで戻れればそれで勝ちだ。
だけど、本当にそれがいいのか?
さっきは四足歩行だったのに三本になってしまい、その結果速度が落ちたから二人が走って逃げる事が出来ていた。
だけど、こいつは今、完全に二足歩行へと進化していやがる。
なくなった前脚からはそれぞれ触手が生え、新種の腕と呼べるものになっている。
そして、もう一ヶ所。
首からも触手が生えていた。
それは絡み合い、頭のようになっていた。そして、触手の先端はツノのように伸びており、その先は槍のように鋭利だった。
「健太さん! でもっ!」
「アスカっアイを連れて早く逃げろ! 俺は大丈夫だから!」
「ぜ、絶対だからな!」
涙を流しながらもアイの手を掴み、ドームに向かって走り出したアスカ。
だが、突然その足が止まった。
アスカ? どうしたんだ?
「シキャァァァァァァァァア!」
もはや狼の叫び声ですらない耳障りなそれに俺は顔を顰めた。
それと同時に俺は舌を打った。
奴の頭の作り出していた触手がその絡みを解き、四本の触手に戻ると、その先端を俺に向けていた。
「アスカ!」
早く逃げろと願いを込めて叫んだ。
同時に、四本の触手が俺に向かって伸びた。
「大丈夫、もう大丈夫だ」
振り返ったアスカの顔は嬉しそうに、赤く染まっていた。
「え?」
突然森の中から飛来する光の球。
それは地面にぶつかり、激しく回転しがら静止すると、力を溜めていたかのように、ボス触手に向かって跳ね飛んだ。
「……スーパーノヴァ」
どこかからかそんな声が聞こえた瞬間、俺を拘束していた触手たちがいつの間にか全て切断されていた。
そして、気が付けば俺は誰かの腕の中で、アスカたちの横に立っていた。
「何が……っ!?」
俺を抱いている人物の顔を見て、俺は驚愕した。
激しく回転しながら綺麗な球体状に爆発している豪炎の光と風を受け、綺麗な金髪を靡かせる少女がそこにいた。
「ーー仁美?」
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