2-5 再会V 〜まだ早い〜
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俺は仁美の家の玄関で横になっていたはずだ。
だけど、目の前に広がってあるこの光景はそうじゃない。
「……病室?」
白い部屋にベッドが一つ。ベッド横にあるサイドテーブルの上には花瓶が一つ。
だけど生けられているのは花というより草? いや、枝か? 針葉樹って奴だな確か。
それにしても、これは一体どういう事だ?
病院っぽい所で目覚めたって事はまさか…………ーー
ーー全部夢?
いやいや、一日だけだったとは言っても結構濃い一日だったんだぞ? それが全部夢?
夢オチとかマジないわー。
でも、あれが夢だとしたらだぞ。そう仮定した場合の話だ。
確か夢って深層心理で願ってる事を見るとか、そんな感じじゃなかったか?
仁美が死んだのではなく、異世界で生きていてくれたってのは、確かに俺としては望んだ、まさに夢のような内容だ。
……だけどさ。その中で仁美が誰かと一緒になっててあんな可愛い子供までいるとか……俺ってそういう趣味あったの?
あの夢を一つの物語として、それを客観的に考えると、まず俺は主人公だ。俺の夢なんだからそれは前提だな。うん。
んで、主人公がいるならヒロインってのが必要だ。
あの夢の場合、それは誰だ?
……いやいや、アイちゃんしかいないだろ。
つまりだ。俺は深層心理の願いが作り出す夢の中で、仁美の娘とのラブストーリーを繰り広げていたわけだ。
しかも俺は彼女の召喚人というなーんかマニアックな感じ。
もう一度言おう。俺ってそういう趣味があったのか?
……うわー、引くわー。
はぁ。とりあえず気を取り直して次の行動を決めるか。
俺が目覚めたって事を伝えた方がいいよな?
多分ベッドの近くにナースコールがあると思うんだけど……あれ、見当たらないな。
もしかして落ちちゃってるのか?
見当たらないって事は多分そうだよなー。このまま待ってればそのうち来てくれると思うけど、静かに待ってると夢の事を思い出して複雑な気分になるから嫌だな。
どうにか床を方を見ようと身体を動かしてみて、俺は異変に気が付いた。
どうして痛みがない?
あれが全部夢だとしたら、俺は今ひき逃げにあってから目覚めたばっかって事になる。
身体にだるさとかはあまり感じない。寝ていたとしても半日や丸々一日くらいのはずだ。
にもかかわらず、今動いてみて、まったく痛みを感じないってのはおかしくないか?
事故にあった直後、俺は自分の身体からたくさんの血液が流れ出てしまったような感覚に味わっている。
少なくとも全治に一ヶ月以上は余裕で掛かるはずだ。
痛みがないからいけるはずだ。確信を持って俺はベッドから上体を起こした。
……やっぱり痛くない。辛くない。
自分の身体を確認してみる。
……やっぱり無傷だ。
……そうか、そういう事か。
アイちゃんたちが夢なんじゃない。こっちが夢なのか。
夢の中でこれが夢だって気が付けるのって結構レアケースだよな。
まあいいや。せっかくこれが夢だってわかったわけだし、俺に妙な性癖があるわけじゃないって事もわかった事だし、とりあえずこの部屋から出るか。
立ち上がり、扉の方まで歩いた所でふと違和感を覚えていた。
「……鉄の扉?」
さっきまで気が付かなかったけど、扉が普通の木製とかじゃなくて、随分と頑丈そうな鉄製だった。
いや、それは別に良い。問題ない。
別に扉が何製かなんて事どうでも良い事だ。
振り返って扉の前から部屋の中を見回した。
改めて見回して思った事がある。
この部屋には普通の部屋になら大抵あるであろうものがなかった。
この部屋には窓がなかったんだ。
病室に窓がないなんてあり得るか?
人間だって植物と同じように、別に光合成をするわけじゃないけど太陽の光が必要なんだ。
健康な人だって必要なのに、病人にはなおさら必要なはずだ。
平和の象徴とも言える光がない部屋。これじゃあまるで、牢獄じゃないか。
病室なんかじゃない。ここは牢獄の中だったんだ。
これは夢、夢なんだ。夢じゃなきゃおかしい。それはさっきわかった事だ。既に結論の出た仮説だ。
仮説? そう、これが夢だなんて話はそもそも仮説でしかない。
俺は既に異世界転移だなんて常識を超えた経験をしているんだ。
これもまた現実。つまり、俺はまた転移をしたっていう可能性があるじゃないか。
これが夢ではなく、別の場所に転移したというならば、死ねばドームに戻るのか?
この仮説は証明をしようがない。
だってそうだろ? この仮説が正しいとそう証明するために必要なのは俺の死だ。
俺が死んでドームに戻れるか否かでしか判断できない。
ドームに戻れたならまだいい。
町長やアスカの事を驚かせる事になってしまうけど、アイちゃんのところにすぐ行けるんだ。彼女のところに戻るのは元々の予定だったし、ラッキーだ。
代わりの剣はまだドームにあったし問題はない。
だけど、もしもだ。
ドームに戻る事が出来なかったら?
本当の意味で死んでしまったら?
この仮説にはそもそもの前提がある。ここが夢ではなく、またどこかの世界、異世界だという前提だ。
ここがアイちゃんたちの生きる世界とは限らないじゃないか。
世界の名前なんて知らないけど、元の世界が地球、仁美やアイちゃん、アスカや町長が生きている世界をそうだな……仮にアースと名付けたとして、この世界がアースとは限らないんだ。
死んでもドームで蘇るのは、俺がアイちゃんが召喚した召喚人だからだ。
しかし、ここがアースではないのならば、俺という存在は召喚人ではなく、そうだろ? 俺を召喚したアイちゃんという存在がこの世界にはいないからだ。
いや、それは正しくないかもしれない。この世界にもアースでのアイちゃんと本来同じ存在がいるかもしれない。ズバリパラレルワールドって奴だ。
だけど、そうだとしても俺がアイちゃんに召喚されたという事実は消えてしまう、無効化されてしまうはずだ。
つまりだ。ここがアースではない異世界だとすれば、死ねばそこで終わりという事だ。
なんで? どうして? どうしてこんなにも、こんなにも身体が震えてしまうんだ?
死が怖い?
そんなの当たり前だ。誰だって死ぬのは怖いはずだ。今までだって俺は怖がっていたじゃないか。
なんで急に震える?
はは、そうか。そうなのか。俺はいつの間にか安心していたのか、三度死を経験するという、本来ならばありえない体験を経て、変わってしまっていたのか。
死が終わりだという子供でもわかるような絶対の摂理を忘れかけていたんだ。
どうせ死んでもドームで目覚めるんだろ?
そんな風にどこかで思っていたのかもしれない。
だけだ、死んでも大丈夫だという予防線が消えた事で感覚が元に戻ったんだ。
怖い、怖い、怖過ぎる。
だけどこのままここに引きこもっていても事態は変化しない。
と、とりあえずは部屋の外に出よう。
ふと目覚めたら牢獄で寝ているなんて状況に恐怖を感じない奴なんていないはずだ。
大丈夫、怖がっていい。これは恥じゃない。
怖がる事が恥なんじゃない。恐怖に飲まれて進めなくなる事こそ恥だ。
俺は止まらない。人間らしく、凡人らしくブルブルと震えながらでも良い。進むんだ。ちゃんと、一歩ずつでも。
部屋から出ると決意を固めたところなのだが、果たして開くのか?
ここが牢獄だとすれば普通に考えて扉が開くわけがない。
「……あ、開いた」
……おや? もしかして牢獄ってわけじゃない?
俺が一人で勝手に怖がってただけ?
うわー、うけるー。……はぁ。
「さてと」
とりあえず廊下に出てみたけど、ふむ、同じような扉がずらーっと並んでるな。
「あれ?」
反対側に首を向けるとそこには一つだけ違う向きで設置されている扉があった。
お誕生日扉? なーんてね。
良し良し。くだらない冗談を考えられるくらいには余裕が出てきたな。
とりあえずお誕生日扉に向かうとするか。多分これが出入り口だろ。
ん? おそらくさっきまでいた部屋と同じ内装であろう、隣とか他の部屋にはいかないのかって?
確かにもしかすると誰かがいるかもしれないけど……むーり、怖いっす。
お誕生日扉を開いた先にあるのはロビーのような場所だった。
受付にはもちろん誰もいない。
普通なら外に繋がる出入り口があるであろう場所には壁しかなかった。
テーブルとかイスとかはちゃんとあって、カウンターまであるのに出入り口だけないとかどういう事だよ。
俺はホラーゲームの世界にでも転移してきちゃったのか?
カウンターの奥に扉が一つ見える。それからさっきまでいた廊下とは反対側にも扉が一つ。
カウンター先の扉に行くのは多分マズイよな。本来なら関係者以外立ち入り禁止的な場所だろうし。
廊下に戻るって選択肢はない。だって無人の廊下って妙に怖いんだもん。
なら、あの扉か。
正直気乗りしないけど、まあしゃーなしだ。
ドアノブを捻った。うん、開くみたいだな。
一旦目を閉じて深呼吸をした後、俺は思いっきり扉を開いた。
「ーーっ!?」
背筋に冷たい何かが流れた。
先にあったのは廊下とかじゃない。
俺が寝てた部屋よりも二周りほど大きな部屋。
だけど、普通の部屋じゃない。
家具とかは一切なく、あるのは壁と、壁に飾られたたくさんの武器。
剣、刀、槍、銃、盾、弓、鎧、兜、ナイフ、斧、薙刀、他にもたくさんの武器が飾られていた。
病院にこんな部屋が存在するわけがない。俺の心は恐怖の色に染まっていた。
唖然としながらも一歩、また一歩と無意識のうちに部屋の中に入った。
俺に武器に関する知識なんてないけど、ここに飾られている武器や防具たちはどこか普通じゃない。
なんかこう凄いというか、そう神々しいんだ。
無数の武器が飾られている部屋なんて普通の感性を持ってる人からすれば恐怖の対象でしかないけど、その気持ちを簡単に凌駕する魅力がそれらにはあった。
俺はその神器に魅せられていたんだ。
そういえば町長さんの厚意に甘えて刀を一振り貰ったんだよな。
人から頂いたものと比較するのは失礼かもしれないけど、ふと目に入った刀はまるで芸術品のように美しく輝いていた。
無防備に飾られているそれに向かった手を伸ばした。
盗むとか、そういう気持ちはない。ただ、手に取ってみたかったんだ。
「あなたにはまだ早いわ」
突然背後から聞こえた女性の声。
俺が振り向くよりも早く、後ろから目を両手で優しく覆われた。
「だ……れ……」
一瞬見えた綺麗な手の持ち主が一体何者なのか聞こうとした瞬間、強烈な睡魔に襲われた。
そして、俺の意識はそのまま途絶えた。
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