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聖人の称号を返しに行ったら、なぜかもう一枚積まれた件  作者: けものへんにまし
第二章 「仕事じゃないけど人生がかかってる」
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飛んで来た男

 翌日の昼を過ぎたころ、アルノーは館の外にいた。

 昨日、フェリックスとの会話のあとすぐに手紙を書いて届けさせたのだが、ガスパールはその場で返事をしたためたらしく、使いはすぐに返事を持って帰って来ていた。

 街中の工房で待っている、とのことだったので、ジルとジュリアンを連れて出かけようとしていたところだったのだが、門を出たところで、真っ黒な車体の、立派な馬車が近づいてくるのが目に入った。

 その胴の両側にあるのは、赤い剣が交差する紋章。

「……ん?」

 あんな馬車は見たことがない。客人が来る予定でもあっただろうか。

 アルノーが思わず足を止めて見守る中、扉が勢いよく開き、飛び出してきたのは――昨日別れたばかりの、しかし、別れたときとは違って、やけに顔色のいい男だった。

 同時に、ジルとジュリアンが一気に警戒し、剣の柄に手をかけてアルノーの前に立つ。

「……噓でしょ」

 男の満面の笑顔を見た瞬間に、愕然としたアルノーの口から出たのは、そんなつぶやき。

「男爵様! よかった、ちょうど外におられた!」

「……昨日、昼頃にお別れしましたよね?」

「ええ、そうですとも!覚えていただけて光栄です!」

「そこから準備して、夜明け前に出発したと?」

「ええ、その通りです!」

 大きく頷くユーグは「何かおかしなことでも?」と言わんばかりの笑顔を浮かべている。

 この男、文字通り「飛んで」来たらしい。

 モレル領に来た際には領主館に。昨日アルノーはそう言った。

 確かに言った。

 言ったのだが。

「王都と違って、ここは空気が澄んでいるね!あるのは強烈な、生命のにおいだけだ!」

 あまりの自由さに戸惑うアルノーをよそに、ユーグは大きく胸を逸らし、モレル領の空気を肺いっぱいに吸い込むと、晴れ晴れとした顔で言った。

「そうでしょう」

 それはそう。自分もそう思う。アルノーは素直に頷いていた。

 においがないわけでは、決してない。

 王都の淀んだにおいではなく、土と、家畜と、萌える緑が混ざり合った、生きたにおい。

 アルノーが大切に思うそれを、「澄んでいる」と表現したユーグの感性に、ついうれしくなってしまう。

「……ちょうど鍛冶職人さんの工房へ行くところだったんです。ユーグさんも、来られますか?」

「ぜひ! 願ってもない!」

 食い気味の返事に、アルノーはため息をつき、護衛の警戒を解くことに努めることにした。

「ジル、ジュリアン。二人ともありがとう。たぶんこの人は、こういう人なんだよ……」


本日分、短いですがきりがいいので……。

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