削ぎ落とされた戦闘服(シャンブル侯爵の従僕視点)
シャンブル侯爵閣下、ヴィクトール様の背後三歩、それが私の定位置だ。
この位置から、閣下のわずかな肩の揺れや、視線の動きですべてを察さねばならない。
モレル伯爵家の次男、アルノー・ド・クレマン男爵。
この若き調査官が初めて俸給に手をつけたという報を受けた時、閣下は言葉少なに「見に行く」と告げられた。
裏庭の土にまみれ、豚の餌であるドロコブを「トフィー」と呼んで平然と差し出した少年に、閣下が「鋼についてはどう思っている」と問うた。あの少年は儚げに笑って答えた。
『ハサミは、生活を支える道具です』と。
帰り際、閣下は「……わかった」とだけ仰った。その肩が、微かに満足げに揺れるのを私は見逃さなかった。
閣下がああなられるのを見たのは、久しぶりのことだった。
* * *
晩餐会において、私はシャンブル侯爵閣下のお傍に控えながら、閣下がたびたび視線を向けるその若い男爵殿を、自然と目で追っていた。
立ち居振る舞いは申し分なかった。入場、開幕ダンス、挨拶回り。堂に入っている、と評されるであろう振る舞いだった。
だが、私が目を引かれたのは装いだった。
銀鼠色のアビ。華美な原色を競い合う会場の中で、その色だけが静かに浮かび上がって見えた。長年、閣下の傍に立ってきた私の目には、あれは削ぎ落とされた戦闘服に映った。
功績が読み上げられる間、あの方は微動だにしなかった。喜びも、照れも、困惑も、表には一切出ていない。
だが、一瞬だけ——侍従が区切りを作った直後、あの方は確かに一歩、前に出た。何かを言おうとしていた。しかしすぐ、次の文が続いて、あの方は半歩引き、扇を口元に寄せた。
会場はそれを「深い感慨に耐えておられる」と受け取ったようだった。隣に立っていた婦人が「ああ、さすが聖人様は」と囁くのを、私は聞いた。
外国の学者殿が感謝の言葉を述べた後、男爵殿は静かに扇を開いた。その所作を、私は知っている。帝国の古い礼法だ。場の主導権を静かに相手に渡す、そういう動きだ。
帝国の流れを汲む礼法を、王国の若い男爵がなぜ使えるのか。
晩餐会が終わったあと、私は主人に問うた。
「閣下、ド・クレマン男爵殿は、いったい何をお考えなのでしょう」
シャンブル侯爵閣下は、グラスを手の中で静かに傾けながら、少しの間黙っていた。
「さあな」
やがて言われたのは、それだけだった。
「……だが、おもしろい」
主人の目は、愉快そうで、どこか遠かった。




