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収穫祭の参加者

 植えたトフィーの最初の一株を掘り上げた時、ごろごろと土から出てきたいくつもの塊を見て、アルノーは思わず声を上げた。

「増えてる」

「増えるとも!これが大地の黄金卵(ウフ・ド・テール)というやつなのだ、諸君! 一つ埋めれば七つ八つと戻ってくる、誠に健気な作物だ!」

 掘り上げた株を仁王立ちで見下ろしながら、アルノルドが言った。彼の体中に泥がついているのは畑の端でしゃがみ込んでいたためだ。

 ユーグは去ったが、アルノルドはここに残り、シエルンを増やす方法を模索している。

「いち、にい……すごい、一株から十一個も出てきた」

 試しに数株掘ってみたら、かごに山盛りになった。

 トフィー料理店を始めるには心許ないが、こんなにあるなら、試作をかねて皆にも食べてもらうことはできるかな、と思ったアルノーは、手すきの使用人数人に声をかけた。最初は敬遠されていたが、最近は慣れたもので、トフィー料理を楽しみにしてくれる使用人も増えているのだ。

 館の裏手に作ってもらった簡易かまどは、もともと農作業の合間の湯を沸かすための設えだったが、アルノーが帰ってきてからは主に試作料理の場になっている。

 最近では、粗末ではあるが屋外で使ってもいいテーブルセットや調理器具もすぐに出せる位置にしまわれていて、大変便利になっていた。


 採れたてのトフィーを洗い、いくつかを灰の中で蒸し焼きにする。ジュリアンに火の番を任せ、アルノーは他の手順に移る。

 今日はチーズとの組み合わせに挑むのだ。

 刃物には触らせてもらえないので、ジルに頼んで生のままのトフィーの皮を剝いて細く切ってもらい、チーズと塩を入れてフライパンに入れ、炭火の上に置いてみる。

 チーズがとろけてくっついてくれたら、おいしくなるんじゃないかと思うんだけど。

 慣れない手つきで細切りを作るジルを見守る間に、トフィーの灰焼きも出来たので、熱々の皮を剝いて潰したトフィーにミルクを混ぜて滑らかにし、それを香味野菜と炒めたミンチ肉の上にたっぷり重ねて、仕上げに削った硬質チーズをふりかける。名付けて「トフィーの重ね焼き」だ。

 二つの器に分けて作り、一つはこのまま炭火にかけチーズをとろけさせ、もう一つは陶器の器に入れ厨房にオーブンに入れて焼いてもらうようお願いした。おいしい方を採用したい。


 チーズの焦げるいい匂いが漂い出したころ、意外なお客様が現れた。

「なんだ、自分たちだけでおいしいものを食べようとしているのか」

 少し意外そうな顔をして立っていたのはリュシーだった。初対面の時からそうだったが、やはり活動的な質であるらしく、侍女を置いて闊歩している姿をよく見かける。今日もその例に漏れず、付き添いの姿は見えない。

「あ、リュシー様。よかったら一緒に食べませんか。トフィーです」

「……トフィー?」

「このごつごつしたやつです」

 アルノーがかごを傾けて見せると、リュシーの表情がわずかに動いた。

「ドロコブじゃないか」

「大地の黄金卵ですよ!」

 リュシーは前のめりに会話に割り込んできたアルノルドから半歩体をずらした。

「……あなたが、アルノルド殿ですか」

「そうです!アルノルド・フォン・ロイテンベルク、コル・ノワールから来ました。よくご存じで!」

「リュシー・ド・グランヴァルです」

 リュシーは軽く名を告げたが、目はトフィー料理に釘付けになっていて、アルノーが焼き色のついた細切りのチーズ焼きを取り分けると、素早く一皿受け取って口に運んだ。

「カリっとしてチーズが香ばしくて、いけるじゃないか!」

「故郷では冬の保存食として各家に蓄えておくのだよ! 麦より土が痩せていても育つし、実に頼もしい作物だ! 諸君!」

 アルノルドが横からめげることなく叫ぶと、リュシーがアルノルドの方に向き直り、少しの間その顔を見た。

「オストライヒでは、一般的な食べ物なんですか」

「そうとも! 農夫も、領主も、修道院でも食べる。茹でてもいいし、潰してもいいし、焼いてもいい。故郷の友人は皮のまま火に放り込んでおいて、作業が終わるころに食べていたな。最高においしかったものだよ!」

「修道院でも、というのは」

「麦を節約できるから、代わりによく使うのだよ」

「……北の辺境では、麦が三年続けて不作だったんだ」

 リュシーがふいに言った。

「今年もあまり期待できない。父にこの話をしてみてもいいだろうか」

「もちろんだとも!」

 勢いよく言ったアルノルドだったが、ふと顎に手を当てた。

「霜が早いとなると収穫の時期は調整が必要かもしれないが、育たないとは思わない。高地でも育った例を私は知っているよ」

 リュシーがアルノルドの言葉に小さく頷いた。

「詳しいお話を聞かせてもらえるだろうか」

「私の知る限りであれば喜んで! ではまず、土について……」

 アルノルドの講義が始まりかけたのを感じたアルノーは、炭火近くの重ね焼きをそっと取り分け、ジルとジュリアンに渡す。それから使用人たちにも配った。

 ついでに、火にかけないまま残っていた細切りのほうも使い切ろうと、炭火にかける。

 それから自らも重ね焼きを口に運んだ。

 ボリュームがあっておいしいが、これはチーズに焦げ目がついたほうがいいかもしれない。あともう少し複雑さが欲しい、といろいろな食材を思い浮かべる。これで生計を立てるなら、容易に再現できる味では生き残っていけないのだ。


 アルノルドが土の話から冬の保存法の話に移ったあたりで、リュシーが視線をアルノーの方へ向けた。

「どうぞ」

 欲しいのかな、と思って重ね焼きを差し出すと、リュシーは今度も遠慮なく受け取って頬張った。

「リュシー様は、どうして縁談を受けられたのですか?」

 なんとなくだが、この人の立ち居振る舞いから、ざっくり聞いても怒られないのではないかと思ったので、アルノーは遠慮なく切りこんでみた。

「御覧の通り、私は剣や馬のほうが好きでね。コルセットが嫌だと言っていたら、十九になっていた。そこに来たのが、フェリックス様との縁談だ。条件も悪くなかったからね」

「……なるほど」

 アルノーは素直に頷いた。その話し方は率直で、聞いていて疲れない。

「アルノー様、オーブンで焼いたのが出来ましたよ」

 ジュリアンが厨房から持ってきた熱々の重ね焼きを見て、ジルが喉を鳴らした。

「これは……オーブン焼きの圧勝ですね……」

 チーズに焼き色がつき、油がじゅうじゅう音を立てている。

 大正解が来た。アルノーがそう確信していると、裏庭の入り口の方から、複数の足音が近づいて来た。

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