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壁と同化する礼装

 数日後、アルノーはジルに付き添われて仕立て屋を訪れた。

 成人のお披露目用の礼装一式を誂えるためだ。

 兄から「衣装はこちらで手配する」と言われていたのだが、採寸当日に「モレル伯爵家として恥ずかしくない格好をしろ」とだけ言い残して、フェリックスは慌ただしく消えた。客人がどうとか言っていたが、完全に丸投げである。

 仕立て屋の主人は目の肥えた老職人で、アルノーの前に次々と生地見本を広げた。鮮やかな色が視界にあふれる。

「デビュタントのお召し物でございましたら、このあたりはいかがでしょう。今季は鮮やかなお色が——」

 アルノーは説明を右から左に聞き流しながら見本を眺めていたが、とある布に目が留まった。

「……これにします」

「銀鼠でございますか……」

 仕立て屋が驚いたような顔をしているが、あまりにも地味な色を選んだから驚かせてしまったのだろう。

 選んだ布地は鳩の羽のような淡いグレーで、光の加減で微かに青みが差す。汚れも目立ちにくそうだった。

 これなら、会場の隅にいれば壁の染みだと思ってもらえるんじゃないかな、とアルノーはその色を心強く思った。

「ええ、これにします」

 刺繍の図案を決める段になって、アルノーは胸元から一枚の紙を取り出した。

 以前の野営の際にアルノルドが描いた、ドロコブの……否、トフィーの花と葉っぱの絵である。精緻に描かれたそれを気に入ったアルノーは、あのとき譲ってもらったのだった。

「こちらの図にある花の図案はできますか。葉っぱも」

「見たことがない花でございますね」

「ええ、そうかもしれませんね。どうでしょう、使えそうですか?」

「……やってみましょう」

 クラヴァットについては、複雑な結び方などしても苦しいだけなので、店内に飾られていたレースを巻くことにした。大変に繊細で美しい。

 店主はなんだか目を輝かせていたし、ジルが満足そうに頷いているので、悪い選択ではなかったようだ。

 一通りの注文を終えたころ、アルノーはふと思い出した。

「そういえば、扇の仕立てもお願いできますか?」

「ええ、当店でも承れますとも」

 そう言って、主人がまた見本を並べる。

「男性用ですと、緞子が最も格が高いとされていますね。あとは絹、羊皮紙、革……。今なら山羊革もおすすめですよ。薄くて丈夫で、水気にも強うございます」

 トフィー料理を作っていても汚れにくそうでいいな、とアルノーは思った。非常に実用的だ。

「それにします。せっかくだから衣装と色を揃えてもらえますか。骨はこちらの鋼です」

「かしこまりました……では、銀鼠に染めた山羊革で」

 深い青の骨に、銀鼠の革張り。色もかっこいいし、汚れにも強い。

 料理店を決めて間もなく、理想の扇との出会いが決まるなんて。

 沈んでいたアルノーには、将来のトフィー料理店が祝福されたような気がして、気持ちが慰められたのだった。

きりのよさから短めです。

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