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第21話 サブオーロラ

一行は――アートを先頭に――見つけたばかりの街を、あてもなく歩いていた。


 ただのトンネルだったものが、今では通路や橋や、積み重なったバラックが、地下の血管のように交差する迷路へと広がっていた。空気は濃く、暑く、焦げた油の臭いが染みついていた。ときおり、遠くで低い響きがこだました。まるで、大地の心臓が足元で脈打っているかのように。


 錆びたダクトが壁を這い、青みがかった蒸気を吐き出していた。その蒸気が、白熱する結晶の光と混ざり合う。住人たちは黙って通り過ぎていった。真剣な表情に、光る刺青、金属の板を縫いつけた破れた服をまとった男女。色とりどりの衣服が、行き交う人々に鮮やかな彩りを添えていた。


 それは隠された、脈打つ文明だった。細部の一つ一つに、謎が潜んでいた。


「結局、ここはどこなの?」

 ダイアナが眉をひそめてつぶやいた。

「あのおばあさん、『《砕けた道》』って言ってたけど、いったいどういう意味なのよ?」


 ハロルドは、足元のわずかに傾いた地面を見つめていた。

「下ってる」

 抑えた口調で言った。

「ゆっくり、ほとんど気づかないくらいに……俺たちは下ってるんだ」


 エララは、疑わしげに周りを見回した。

「じゃあ、ここが《ヒドゥン・ギア》の基地ってこと? まるで迷路ね」


「基地? この人たちが、あんたたちには兵士に見えるわけ?」

 メンナが問いかけた。


「ここにいる一秒ごとに、疑問が増えていく」

 アートが答えた。

「何があっても、絶対に気を抜くな!」


 進むにつれて、人の声と鍛冶場の音が近づいてきた。再利用した板で作られた店、工房、そして《ヴェラロ》から外した《アダマンタイト》の部品を並べた露店が、道の両脇に広がっていた。子どもたちの一団が、大声で笑いながら駆け抜けていった。皆、左右の目の色が違っていた。


「《ヴェラロ》の部品? どうやって、こんなものをここまで運んできたの?」

 ダイアナが、信じられないというように尋ねた。


「それだけならいいけどね。ここの人たちの目、見た? 目の色を変えるのが、ここに住む必須条件になってるってわけ」

 メンナは周りを見回していた。


「問題は、どうやって体を壊さずにそんなことをしてるのか、だな」

 ハロルドが指摘した。この《サポート》は、この場所に興味をそそられ、その関心はますます膨らんでいた。小さく古いルーンの欠片に覆われた壁に、手を触れた。


「この空気、気に入ったぜ。変わった匂いがする」

 マルコスが言った。緑の瞳の《ソードマン》は、深く息を吸い込んだ。


「これを空気って呼ぶのか?」

 ハロルドが咳払いをした。

「一酸化炭素、窒素酸化物……まだ挙げられるぞ」


 彼らはさらに数分歩き、明かりの灯った曲がり角にたどり着いた。


 古く破れた紫の帆布のテントが、静かに揺れていた。そのそばで、中年の男が、いろいろな材料の残骸で作られたハープのような楽器を爪弾いていた。


「あてもなく歩くのは、もう終わりだ。誰かと話す頃合いだな」

 アートが近づいた。

「なあ! 邪魔して悪い。《砕けた道》って場所を探してるんだ」


 男は穏やかな曲に集中したままだったが、やがて顔を上げて微笑んだ。横の歯の一本が、銀色だった。


「ああ、もちろん! 無作法をお許しを。楽器を弾いていると、つい夢中になってしまうものでね……すぐこの先ですよ」

 その声は間延びしていて、優しすぎるほどだった。

「どうぞ。道をご案内しましょう」


 ダイアナは眉をひそめた。

「これって……話がうますぎない?」


 アートは頷いた。

「様子を見よう。あのばあさん、でたらめを言ってたわけじゃないのかもしれない」


 彼らは狭い路地へと入っていった。一歩進むごとに、光が薄れていく。人混みの音は消え、代わりに、壊れた管から絶え間なく落ちる水滴の音が響いた。一行の最後の影が路地の入口を越えたとき、男の声がこだました。


「着きましたよ!」


 続いて、鞘から刃が抜かれる鋭い音。両脇から影が飛び出し、一行を取り囲んだ。


 エララがマナの障壁を張った。マルコスは、剣を持った二人の男を一度に押し返した――その剣は、希少な素材の廃材で作られていた。ダイアナが放った矢は金属の壁に跳ね返り、一人の魔法使いに命中した。その魔法使いは、《ヒドゥン・ギア》の者たちが使っていたものに似た、マナ増幅のワンドを持っていた。


 アートが前に出た。

「くっ! 《ギア》の連中か!?」


「戦い方に型がない」

 ハロルドが答え、仲間たちとつながるために、マナの糸をまとった拳を上げた。


「こいつら、盗賊だよ!」

 メンナが叫んだ。雪のように白い髪の《ランサー》は、二つに分かれた槍を手に取り、一度の軽業のような動きでそれを一本につなぎ合わせた。両端に刃のついた、おなじみの槍の姿だった。


 一行が完全に反応するより早く、鋭い音が響いた。笛の音だった。


 路地の真ん中で白い閃光が炸裂し、敵の目をくらませた。光が消えると、一人の少年が横の梯子から降りてきた。煙を吹く筒を手にしていて、その煙はたちまち辺りに広がった。


「こんなに品よく死にたがる奴ら、初めて見たよ。才能あるね、ほんと?」

 少年は、からかうような口調で言った。

「来たばっかりなのに、派閥ひとつ丸ごと敵に回すなんてさ」


 ダイアナは、まだ光にくらくらしながら、目をしばたたいた。

「私たちがここの人間じゃないって、そんなに見え見え?」


「ブーツだよ」

 少年が指さして答えた。片方の目は赤く、もう片方は緑だった。

「きれいな革なんて、ここじゃ半日ももたない」


 少年は一行についてくるよう合図し、太い二本の管の間に隠された隙間へ入っていった。

「行くよ! 増援を呼ばれる前に」


◇


 狭い通路と間に合わせの階段を抜けて、彼らは歯車や吊るされた布、積み上げられた金属の部品でいっぱいの部屋にたどり着いた。少年は緑のランプを灯し、壊れた椅子にどさりと腰を下ろした。


「で……あんたたち、ここで何してんの? 地下観光?」


 アートは、まだ息を切らしながら答えた。

「味方を探してる。それと、答えを」


「そんな格好してたら、どっちも見つかんないよ」


 エララは、少年を頭のてっぺんから足の先まで観察した。褐色の肌は油で汚れ、黒髪は両脇を刈り上げていて、乱れた前髪を金属の糸で留めていた。厚手のズボンに、底の重いブーツ、手縫いのポケットがついた暗い色のベストを着ている。くすんだ青のスカーフが、首の一部を覆っていた。少年が言った。

「《サブオーロラ》に入ったのに、それすら知らないの?」


「《サブオーロラ》?」

 エララがつぶやいた。


「ここは《ゼロ層》。《サブオーロラ》の一段目さ。ここに住んでるのは、自分が自由だと思ってる連中……でも実際は、下の層から回ってくる再利用の空気を吸ってるだけなんだ」


 ハロルドは腕を組んだ。

「で、層はいくつあるんだ?」


 少年は笑って続けた。

「あんたが降りる勇気のある分だけ」


 彼は立ち上がり、横の梯子を指さした。

「ついてきて。あんたたちを変装させられる人を知ってる。その格好でうろついてたら、正しい道を見つける前に、どこかの派閥に売り飛ばされるのがオチだよ」


「その派閥っていうのは?」

 アートが、注意深く尋ねた。


「ここじゃ、『通貨』は仕事と部品と約束なんだ。エルドなんて誰も使わない。上じゃ金がすべてを腐らせちまったからね。だから、帳面につける貸し借りか、物々交換か、食べ物のための労働になった。秩序を保つために、住人は三つのグループにまとまってて、それぞれに印と役目があるんだ」


 皆、目を見開いて聞いていた。敵がこれほどの組織を持っていることに、驚いていた。


「《廃材のハープ》」

 少年は、つま先で金属の板を叩きながら続けた。

「市場を握ってる連中だ。職人、回収屋、商人。ガラクタを道具に変えて、誰が露店を出すか、交換の値段をいくらにするかを決めてる。服でも、溶接でも、珍しい部品でも、必要ならハープに話をつけに行く。奏で方は繊細だけど、忠誠を取り立てるんだ」


「私たちを襲ったのは、そいつらね」

 ダイアナが言った。


「《深淵の太鼓》は腕っぷしだ」

 少年は苦笑した。

「奴らが街のリズムを刻んでる。巡回、門、通行料の取り立て。ただのごろつきじゃない。道を安全に保ってる(少なくとも、秩序は保ってる)。太鼓に金を払わずにルールを破った奴は、すぐに消える。奴らは《ギア》の『飼い犬』なんだ。扉の見張りの仕事を肩代わりして、《ギア》がほかの層に集中できるようにしてる」

 少年は指で引用符を作ってみせた。


「だから、ここに入るまで、《ヒドゥン・ギア》の誰にも出くわさなかったのか」

 ハロルドは顎に手を当てた。


「そういうわけでもない。ここに入れたのは、入れてもらえたからだよ。ブローチなしで出入りする方法はないんだ。魔法と技術を組み合わせた仕組みでね。ブローチがあれば、出入りできる」


 一行は何も言わずに、メンナを見つめた。《ランサー》は目を逸らした。


「それから、最後に、でも忘れちゃいけないのが《硝子のリラ》。技術を受け持ってる」

 弦を弾くような手つきをしてみせた。

「技師たちで、鍛冶場とマナの結晶の番人だ。発電機を修理したり、普通の人の手には危なすぎるものを作ったりしてる。それに、口が堅い。あいつらに関わるってことは、秘密と借りに関わるってことさ」


「じゃあ、行こう……」

 アートが言いかけたが、遮られた。


「待ちなって、おじさん! 授業はまだ終わってないよ。よーく聞いて。誰もこんなこと教えてくれないし、俺も二度は言わないから」


「おじさん?」

 若い《ストライカー》は、むっとして片眉を上げた。


 ダイアナが、小さく鼻で笑った。


「さっきも言ったけど、派閥ごとに経済の一部を握ってる。ハープは市場をまとめて、太鼓は出入りと安全を取り締まって、リラは生産と魔法の『価値』を管理してる。取引は口伝えで記録されるか、腕に印をつけるか、タブリージャに残す。仕事一回分の価値がある、金属か革の切れ端のことさ。後ろ盾がいなかったら、危ない目に遭う。無理やり働かされるか、借金のかたに『売られる』か……」

 少年は、何かの記憶がよみがえったかのように、床に目を落とした。


「だから、こんなに刺青をした人たちがいるの?」


「そのとおり! だから、上の服で目立ちながらうろつかないでよ」

 少年はブーツを指さしながらつぶやいた。

「そのブーツで、あんたたちのことがバレるんだ。だから言ったろ。見た目を変えないと、思ってるより早く、労働の列に並ぶことになる。それで済めばいいけどね。囚人として、下の層に連れていかれるかもしれない」


 ハロルドは、悪だくみをするような笑みを浮かべた。

「それだ! まさに、それをやるんだよ!」


「どうやら、作戦があるみたいね」

 ダイアナが言った。


「それで、あんたのその目は? ここじゃ、ほとんどみんな左右で目の色が違うよね」

 メンナが、興味深そうに尋ねた。


「ああ! これ?」

 少年は目に指を入れ、レンズを一枚取り出した。明るい赤の両目が、人目を引いた。

「何年か前に、《ギア》がいろんな実験をしたんだ。そのせいで変異が起きて、ほとんどの住人の目の色が変わっちまった」


「うん。でも、そのレンズは何のため?」

 メンナが聞いた。


「兄ちゃんがくれたんだ。周りに紛れて、その実験に連れていかれないようにって。ちょっとしみるけど、平気さ!」


「あの外道どもが!」

 アートは拳を握りしめた。


 少年は大笑いした。

「おじさん、面白いね! なんだかんだ言っても、ここを上の害虫どもから守ってるのは《ギア》なんだよ」

 彼は腕を組み、身を乗り出した。

「あんたたちが害虫だって言ってるわけじゃないけど……結構気に入ってるしね……さて、時間の無駄はここまで。新しい服を手に入れに行こう。それと、ついでに言っとくと、俺の名前はエイデン」

 彼は歯を見せて笑った。


「あなた、いくつなの、坊や?」

 エララが尋ねた。


「あんたと同じくらいの背だろ!」

 少年がすかさず答え、メンナは笑いをごまかした。

「それに、もう十四歳だし……」

 得意げに付け加えた。


 数分後、彼らは街の路地や通路を抜けていった。壁には、蛍光の素材で描かれた絵があった。


「この絵は何だ?」

 マルコスが尋ねた。《ソードマン》は一枚に触れ、指についた塗料を確かめた。


「ティングリットっていうんだ。ティンタ(インク)とグリート(叫び)で。うん、名前のつけ方は、あんまりセンスないんだよね……」

 両手で身振りをした。

「これは俺が描いたやつ。描いてる人は、ほかにもたくさんいるよ」


「『《ギア》もオーロラも、くたばりやが……』本気なの、これ?」

 エララは、さげすむように彼を見た。

「どっちの味方をするかも、わかってないのね」


「俺たちは、ただ自由になりたいだけさ。どこに住むか、何をするかを、自分で選べるようにね。支配してくる馬鹿どもなしで」


 一行は歩き続け、大きな工房にたどり着いた。そこでは槌の音と火花が、空気を照らしていた。がっしりとした体格の男が、金床に向かって働いていた。その両腕は蛍光の刺青に覆われていて、生きた回路のように、かすかに動いているような錯覚を生み出していた。


 少年が叫んだ。

「おーい! コラン! 頼みがあるんだ!」


 鍛冶屋は目を細めて、顔を上げた。

「今度は何だ、ガキ? また俺に埋めさせる厄介事か?」


 一行に気づくと、眉をひそめた。

「よそ者か……」


「服がいるんだ」

 少年が言った。

「この人たち……まずい派閥に手を出しちまってさ」


 コランは鼻を鳴らした。

「そいつは、こいつらの問題だ」


 沈黙が重くのしかかった。やがて、アートがカウンターに近づき、その上に硬貨を何枚か置いた。

「争うつもりはない。通り道と、身を隠す手段がほしいだけだ」


 男は槌を振るい続けた。


「俺は、ギデオン・ハマーの息子だ」


 ようやく、槌の音が止んだ。男は道具を置き、驚きと疑いの入り混じった目で若者を見つめた。そして、大声で笑った。しゃがれた声が、その場を満たした。


「オーロラの王者、ギデオンの息子だと? どうだかな……仮にそうだとして、そう言えば俺が素直に手を貸すとでも思ったか?」


「敵として来たんじゃない。《ヒドゥン・ギア》に連れていかれた仲間を、見つけたいだけだ」


 鍛冶屋は、乾いた笑いを漏らした。

「なら、なんで親父をここへよこして片をつけさせなかった? 連れていかれたのは、奴らがそうしたかったからだ。ここじゃ、誰も囚人なんかじゃないんだよ、小僧」


「俺が外で見たものは、自由には見えなかったけどな」

 ハロルドが言い返した。


 コランは彼を見据えた。

「地上の連中は、自由が何かわかってるつもりでいる。だがここじゃ、少なくとも、どう死ぬかは自分で選べる。上じゃ、王の靴を舐める以外に道はない」


 コランは硬貨を見た。ほんの一瞬、その目が光った。


「こいつは、ここじゃ何の価値もない」

 彼は言った。

「だが、いくつか『問題』を片づけるのには使えるな」


 彼は振り返って鉄の箱を開けた。中から、厚手の布と革と金属の合金でできた、粗末な服が現れた。


「ああ! それと、武器は置いていかなきゃだめだよ」

 エイデンが言った。

「それを持ってたら、次の層には入れない。コランが預かっててくれるから、心配いらないよ」


「お前らの服はここに置いていけ。それで、こいつを着ろ。一日以上はもつかもしれん」

 男が付け加えた。


 彼らは、箱の中から次々と出てくる蠅を見つめた。そのうち二匹が、ダイアナの鼻の先にとまった。ダイアナは反射的に寄り目になった――金色の瞳が、虫に焦点を合わせていた。


「ええっ!?」

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