第16話 イージス
数分前。
《貴族区》の《森林保護区》から数ブロック、《商業区》との境に近い辺りでは、穏やかな暮らしが続いていた。柔らかな灯りが、木々の並ぶ清潔な通りを照らし、そこには手入れの行き届いた庭に囲まれた、趣のある家々が立ち並んでいた。
シルヴェイン――褐色の肌に黄色い瞳の《シールダー》――は、養母と並んで歩いていた。養母は引退した《シールダー》で、白髪まじりの髪に、優しい顔立ちの年配の女性だった。シルヴェインは、買い物でいっぱいのかごをいくつも抱えていた。
「お母さん、食べ物買いすぎだよ……」
「あら? 孤児院に、どれだけ子どもたちが来るようになったか見たでしょう?」
年配の女性は笑った。今にもあふれそうなかごを指さす。
「足りないより、余るくらいがちょうどいいのよ、あんた」
シルヴェインは笑った。長い赤髪のひと房を整える。
「そうだね……毎週、助けが必要な子が増えてる」
その視線は、この辺りの家々の広い庭の間をさまよった。庭は、それぞれの家の明かりに彩られていた。その明かりは、通りの街灯よりも周囲を明るく照らしていた。
「それに、あんたのおかげで、あの子たちはお腹を空かせて帰ることがない。あの子たちにとって、あんたは光なのよ。知ってた?」
「『光』は大げさだよ、お母さん」
「疑うんじゃないよ……孤児院で出会ったあの日から、あんたがこんなすてきな女性になるって分かってた。弱き者を守ること……?」
彼女は言葉を止め、娘がその先を続けるのを待った。
「もう! 『まだ汚れていないものを守ること』」
シルヴェインは、うんざりした口調で続けた。
「それから?」
「『声を奪われた者の声となり、寄る辺なき者の力となること』」
年配の女性は一瞬、彼女を見つめた……それから、短く、詰まったような笑い声を漏らした。
「それを覚えてるなら、もう教えることは何もないね」
彼女は背を向けた。笑みまじりのため息とともに、首を振る。もうとっくに分かっている相手に、一生をかけて何かを教えようとしてきた者の、あのため息だった。
◇
家はもうすぐだった。
その家は、《貴族区》の中でも最も慎ましいものの一つだった――明るい色の煉瓦の壁は年月で少しすり減り、そよ風に揺れる赤い花の庭に囲まれていた。遠くからでは目を引かないが、思い出を守る場所だけが持つ、珍しい静けさを漂わせていた。年配の女性は立ち止まると、杖に体を預け、足を地面に打ちつけた。
「あいたた……この老いぼれの脚も、もう昔のようにはいかないね」
シルヴェインは微笑み、彼女を支えようと振り返った……そのとき、近くの《森林保護区》の方角から、爆発音が響くのを聞いた。驚いた鳥たちが飛び立った。
二人は、はっとして振り返った。
「シルヴェイン、面倒に首を突っ込むんじゃないよ!」
若い娘が買い物を地面に置き、音のほうへ駆け出すのを見て、年配の女性は釘を刺した。
「夕飯までには帰る!」
肩越しに、彼女は叫んだ。
「ちゃんと帰っておいでよ! ミートパイを作るからね!」
シルヴェインは歩道を駆け、小さな柵を飛び越えた――よその家の裏庭を突っ切って近道をし――住宅地と境を接する森へと入っていった。
木々の間を音もなく進むと、すぐにその光景が目に入った。両手を上げて降参したアートと、薄紫の長い三つ編みの若い娘、ダイアナ。その瞬間、フードの者の一人が若い魔法使いの頭を殴り、彼は崩れ落ちた。
赤みがかった髪の《シールダー》は眉をひそめた。数日前の任務で、自分たちを待ち伏せした連中と同じだと気づいたのだ。木の陰に隠れて、一団が気を失った二人を連れ、森の奥へと消えていくのを見ていた。
彼女は拳を握りしめた。
「どこへ連れていく気……?」
迷うことなく、背中のホルダーから盾を外し、腕に固定した。影に身を潜めながら、彼らのあとを追い始めた。
(……)
思いがけない救出のあと、三人は残った力のすべてを振り絞って走っていた。トンネルは、道そのものを折り曲げているかのように、時間と息を奪っていった。角を曲がるたびに、逃走の危険を感じる気持ちが膨らんでいった。
最後のひと踏ん張りで、三人は牢獄を隠していた石の口から外へ出た。月の光が影を切り裂き、空を――そして待ち伏せを――あらわにした。
前方に開けた空き地――保護区の高く太い木々に囲まれた場所――は、敵で埋め尽くされていた。幹にもたれ、影の中に潜み、枝の上に陣取り……数十人のフードの者たちが、沈黙する捕食者のように待ち構えていた。
「囲まれてる」
目を見開いて、ダイアナがささやいた。
「ダイアナを連れて逃げろ」
アートが命じた。
「なんですって!?」
「マナがほとんど残ってない。ここで戦っても時間の無駄だ。俺が引きつけるから、その隙に逃げろ」
「もう、あなたを置いていったりしない」
弓をしっかりと握りしめて、ダイアナが言った。
シルヴェインは盾を前に構え、根のように足を地面に踏ん張った。黄色い瞳が地形を見渡し、距離と位置を計算していた。自らの付与魔法から生まれた、彼女を包む風の外套が揺らぎ始めていた。長くは保たないことを示していた。
「私の後ろにいて!」
フードの者たちが押し寄せ、戦いが炸裂した。
アートは片手を上げ、素早くそれを握った。マナが応え、指の間で金色の火花のように踊りながら、螺旋を描いて曲がっていく。エネルギーは地面に凝縮し、足元に広がる白熱した脈を描き出した。それは魔法使いの鼓動と同じ拍子で脈打っていた。
続いて、低い音が大地の奥底から轟いた。地面が震え、前方へ一直線に亀裂が走る。やがて、長い石の城壁が地面を突き破り、乾いた轟音とともにそびえ立った。魔法の力の下で、砂埃が渦を巻いて散っていった。
敵が放った炎の球が巨大な壁にぶつかり、光の破裂となって弾けた。その光が、三人の顔を一瞬だけ照らした。
ダイアナは横へ跳び、外科手術のような正確さで矢を放った。矢は標的に当たるたびに爆発した。シルヴェインは、他の二人の死角を狙う攻撃を一つ残らず防いだ。衝撃のたびに、その盾が震えた。
不利な状況でも、三人はほとんど完璧な連携で戦っていた。だが、それでは足りなかった。
「きりがない!」
アートが叫んだ。炎の刃を作ろうとしていたが、マナが少ないせいで、なかなか形にならなかった。
「くそっ! 一番得意な属性でも……!」
魔法を放つ前に、二つの人影が木々の間から現れ、重い一撃で道を切り開いた。一人目は背が高く筋骨たくましい男で、長剣をとんでもなく軽々と振り回していた。
「マーク!」
ほっとして、ダイアナが叫んだ。
その隣では、もっと控えめな顔立ちの若者が、先端に青いルーンのついた杖を構えていた。ルーンは、守りの障壁を唱えるたびに輝いた。
「来たぞ!」
ハロルドが声を張り上げた。彼は仲間たちの後ろに位置を取った。杖から青みがかった魔法の根が伸び、仲間たちの体に触れて、うっすらと透ける外套を作り出した。それは耐久力と力を高め、マナの消費を抑えた。
「よし、これでいける!」
アートが言った。
「どうやってここが?」
シルヴェインが尋ねた。
「ご婦人が一人、《商業区》のど真ん中で助けを求めて叫んでたんだ……」
マルコスは体をひねり、横薙ぎの一撃で二人のフードの者を打ち倒して、空間を開いた。
「お母さん!……」
《シールダー》は顔を赤らめた。
戦いは激しさを増した。爆発、金属のぶつかる音、押し殺した叫び声。一行は力を合わせ、少しずつ小道のほうへ退いていった。ダイアナは腰の小さなポーチから光の手榴弾を二つ取り出し、一つを枝の高みへ投げた。そこでは三人のフードの者が待ち構えていたが、今度は彼らが待ち伏せされる番だった。
「目を閉じて!」
彼女は叫んだ。
手榴弾はまばゆい閃光とともに炸裂し、闇を切り裂いた。
敵は叫び声を上げ、方向を見失って落ちてきた。ダイアナは身軽に地面を転がり、立て続けに三本の矢を放った。一本目は空中で爆発し、地上の二人の敵を怯ませた。二本目は、起き上がろうとしていた三人目の鎧を貫いた。
三本目は狙って地面に突き立てられ、小さな赤い光を灯した――目印だ。シルヴェインはそれに気づいた。跳び上がり、盾ごと矢の上に勢いよく着地する。抑え込まれた爆発が炎の波となって盾を押し出し、生きた破城槌のように彼女を突き動かした。
彼女は体を回して、盾の側面で二人のフードの者を打ち、正面からの衝撃で三人目を後ろへ吹き飛ばして仕留めた。
ダイアナは、次の連射に備えて弓を構えたまま、後ろ向きに下がった。
「三人片づけた!」
前方では、アートとマルコスが組んで、息の合った致命的な動きを見せていた。
「付与魔法を使え!」
アートが命じた。
マルコスは咆哮とともに、剣を地面に突き立てた。
「テラ・フィルムス!」
次の瞬間、黄土色の輝きがブーツの下から湧き上がり、鎧の筋を伝って広がっていった。エネルギーの線が、生きた根のように彼の筋肉を脈打ち、肌に絡みついていく。腕はより重く、溶けた岩のように硬くなった。目が茶色がかった光を帯び、剣が激しく地面を打つと、その衝撃は獰猛な熊の唸り声のように響き渡った。
前方の地面が震えた。亀裂が大地を引き裂き、地震の波が広がって、木々を押しのけ、砂埃を巻き上げ、フードの者たちを風に舞う木の葉のように吹き飛ばした。
アートはその隙を逃さなかった。
胸の前に両手を構え、空気そのものを形づくるかのように、螺旋を描いて動かした。マナはすぐに応え、光の糸となって指の間を流れ、宙に金色の軌跡を残していった。
線は回転し、絡み合い、大地がそれに応えて震え始めた。若い魔法使いの周りに、完璧な円を描いて亀裂が走る。突然の身振りで、彼は両腕を広げた。地面の円が黄土色に灯り、乾いた轟音とともに、土の棘が激しく突き出して、倒れた敵へと放たれた。
別の敵がマルコスに横から突進しようとしたが、ハロルドがその間に割って入った。
「気をつけろ、デカブツ!」
宙に両手をかざして、彼は叫んだ。
刃の行く手に半透明の障壁が立ち上がり、戦場全体に響く震動とともに衝撃を吸収した。
汗だくで息を切らしながら、ハロルドは空いた手を仲間たちへ掲げた。マナの糸はまだ彼の指から踊り出し、仲間たちの体へとつながっていた。そのエネルギーは薄いヴェールのように彼らを包み、反射神経と力とマナを、さらに強化していた。
「今だ、アート!」
マルコスが叫んだ。
アートは残りのマナをかき集め、起き上がろうとする敵へ高圧の水の刃を放った。だが、そのうちの一人が剣を回し、その魔法を吸収した。
「このくそったれな技術め……」
若い魔法使いはつぶやいた。
横薙ぎの一撃で、その敵は三倍の力で刃を返してきた。一撃はマルコスに当たったが、彼は剣を前に突き立てて、即席の盾にした。刃は衝撃で震えていた。攻撃の一部がかすめ、ハロルドの脚に当たった。
若い《サポート》は倒れ、脚を押さえた。
一行に力を送っていたマナの糸が、断ち切られた縄のように、乾いた音を立てて切れた。
ダイアナは息をのんだ。
「つながりが……」
マナが尽き、アートは膝をついた。両手を地面につき、疲労に屈しまいとしていた。
「ぐぅぅっ……!」
シルヴェインはまだ立っていた――攻撃を受け止めながら――だが、その攻撃は、すでに彼女を傷つけ始めていた。
敵は一行の周りに群がり、逃げ道をことごとく塞いでいた。
そのとき、音がした。木々の幹の間で、金属の輝きが薄闇にきらめいた。計算された足音が、枯れ葉を踏み砕いていた。
誰かが近づいてきていた。
影の中から、見覚えのある人影が再び現れた。紫のフードの男だ。ゆっくりとした足取りで、肩には深い傷を負い、シルヴェインの盾の一撃でまだ血を流していた。彼はよろめきながら近づいてきた。その目は、アートに釘付けになっていた。
「お前!」
アートは信じられないという顔をした。
「言った……はずだ」
男は地面に血を吐いた。
「これは始まりにすぎない、と」
彼らが反応する前に、同じく気を失っていた三人のフードの者たちが、戦いに戻ってきた。
ワンドで闇を切り裂きながら、彼らは一斉に腕を上げた。柄に沿ったルーンが、緑がかった色で脈打ち始める。手首を揃えて回すと、低い音が空気を震わせ、風の中に溶けていく光の記号が描かれた。魔法は即座に応えた。風の奔流がダイアナを木へと叩きつけた。幹がその衝撃で震えた。
マルコスは割って入ろうとしたが、高圧の水の一撃を受けて数メートル先まで吹き飛ばされた。彼の剣は宙で回転し、鈍い音を立てて地面に突き刺さった。
アート――まだ倒れたまま、弱っている――への道が開いた。その状態からは考えられないほどの素早い動きで、男は短剣を抜き、若い《ストライカー》へとまっすぐ突進した。
ダイアナは動こうとした。
「だめ!」
脈打つ黒いオーラに包まれた刃が輝いた。シルヴェインが前へ飛び出した。
ドスッ!
衝撃の音は乾いていた。短剣は《シールダー》の鎧の板の間、肋骨の下に突き刺さった。男は、彼女に突き立てた武器を握ったまま、蔑むように笑った。
「これが、君を守る者の末路だ、アート・ハマー!」
彼は言葉を吐き捨てた。
「君を愛する者は皆、倒れていく……一人、また一人と。避けられぬものに抗い続ける限りな!」
「シルヴェイン!」
ダイアナは身を震わせた。
アートは立ち尽くしていた。動けず、目は虚ろだった。シルヴェインは膝をつき、傷口と唇から血を流しながら、必死に意識を保とうとしていた。フードのリーダーは、数歩先にいる若い魔法使いに、次の一撃を加えようとしていた。今度は、それを止める者は誰もいなかった。
「逃げて、何か変わったかね?」
若い魔法使いは、力のない笑みを浮かべた。
「父さんがこのマナに気づいて、ここへ来るのは時間の問題だ。俺を殺したって……お前はもう終わりだ」
「私がそれに備えていないとでも?」
空が雷鳴を轟かせた。
一陣の風が、梢そのものを敬意を表すかのように折り曲げるほどの唸りを上げて、空を引き裂いた。木々の幹の間に閃光が開き、すぐに半透明の魔法の障壁が地面に激突して、守りの《ドーム》のように一行を包み込んだ。
その向こうで、凝縮されたマナでできた半透明の翼で宙に浮かび、エララ――《サポート部隊》のリーダー――が、復讐の天使のように舞い降りてきた。その翠玉色の瞳は、怒りに燃えていた。
「そこまでよ!」
彼女は叫んだ。
彼女の周りに炎が現れた。制御された螺旋を描き、従順に踊る炎の蛇たちだった。白熱するその熱の中心に、ルシアンが姿を現した――隊長の右腕だ。黒いチュニックが、歪んだ空気の圧力にはためいていた。その揺るがない冷たい目は、忍耐強い捕食者のように戦場を見定めていた。
続いてエドガーが到着した。隊長は威厳をもって戦場に降り立ち、砂埃が舞い上がって、敵を怯ませた。敵は一歩後ずさった。剣は手に提げられ、戦いに終止符を打つ準備ができていた。
フードのリーダーは、援軍を見て歯を食いしばった。彼は、《サポート》のリーダーが作り出した障壁――彼をその敵たちと一緒に閉じ込めていた障壁――に近づき、短剣の刃でそっと触れた。果物をひと切れ切り取るような容易さで、通り道が開いた。
「かかれ!」
隊長が叫んだ。
「退け! 全員! 今すぐだ!」
敵はそれに応じて動いた。
フードの者たちは、四方八方へ逃げ出し始めた。エララはその背にマナの光線を放ち、ルシアンは、横から逃れようとする者たちの足を止めるため、地面に土の棘を呼び出した。
「シルヴェイン!」
ダイアナが息を切らして駆け寄った。
「早く運ばないと……」
隊長を見ながら、そう付け加えた。
アートは必死にひざまずいた。《ウォリアー》の鎧の一部を外し、取り去る。
「早く! 傷口を押さえるのを手伝ってくれ。出血を止めないと……!」
「任せろ!」
ハロルドが足を引きずりながら近づいた。
「これで足りるはずだ」
若い《サポート》は治癒魔法を使ったが、傷は反応しなかった。
「なんだ? どうしてこうなる? 治らない……」
もう近くに敵がいないことを確かめてから、エララが一行に近づいてきた。誰もが、苦しげに息をするシルヴェインを見つめていた。
「無駄よ! 魔法を無効化する刃を使われたの」
《サポート部隊》のリーダーは断言した。
「何言ってんだよ? 早くしろ! 治せよ! 今すぐ!」
アートは声を荒らげ、血まみれの両手で、赤毛のリーダーのチュニックの裾をつかんだ。
「静かにしろ!」
エドガーが命じた。
彼は落ち着いた足取りで近づいてきた。ひざまずき、その目は揺るがなかった。肩からマントを外し、傷口の辺りに巻きつけて、強く押さえた。
「基地へ運ぶ。エララ! レイモンド将軍を呼んでこい。向こうで落ち合う」
隊長はそう締めくくった。
エララは再びマナの翼を作り出し、空へ飛び立った。
「お父さんなら、助けられるかな?」
ダイアナが尋ねた。
「この手の技術を理解している者がいるとすれば、あの男だ」
隊長が言った。
全員が彼女の周りに集まった。エドガーは若い《シールダー》の片手を強く握り、アートとダイアナがもう片方の手を握った。
シルヴェインは、二人の友人を見つめながら、何かを言おうとしていた。ひと筋の涙が、そっと頬を伝った。
「じ……じ……自分に……」
「無理しないで、私たちがいるから……大丈夫……」
ダイアナが言った。
アートは、前の日に《防衛線》で交わした会話を思い出した。
「自分にできること! お前は、自分にできることをやったんだ!」
シルヴェインは満ち足りた笑みを浮かべ、そして気を失った。
「だめ! だめ!……」
ダイアナがつぶやいた。
アートは《シールダー》の手をゆっくりと離し、立ち上がった。
近くの木まで数歩歩いた。一発目の拳は乾いた音を立てた。木が衝撃を吸い込んだ。二発目はもっと強かった。三発目で、樹皮が指の下で割れた。
拳の関節の皮膚が裂けた。暗い筋がゆっくりと流れ始め、砕けた樹皮の粉と混じり合った。肺から空気が、かすれた音となって漏れた――叫びというより、途切れた息だった。
マルコスが追いつき、次の一撃が来る前に、その腕をつかんだ。
アートは抵抗しなかった。肩が落ちた。うなだれ、全身が音もなく震えていた。
ルシアンが、影の間から歩み出てきた。手錠をかけられた、青いフードの男を連行していた――土の魔法でできた手錠だ。
「隊長! 多くを傷つけましたが、全員逃げられました。この一人を除いて……」
《ストライカー部隊》のリーダーは、その場の様子を見て口をつぐんだ。
隊長は、仲間のそばを離れようとしないダイアナをそっと退かせ、シルヴェインを両腕に抱き上げた。敬意を込めて、彼女を持ち上げる。シルヴェインの顔には、まだかすかな笑みが残っていた。
「基地へ向かう。今すぐだ! まだ救える時間はあるかもしれん」
エドガーは言った。その声には、これまで誰も聞いたことのない重みがあった。その目は、まっすぐ前を見据えていた。
「そなたは誇り高きオーロラの《ウォリアー》だ! 持ちこたえろ!」
そして、それ以上の言葉もなく、全員が小道を急いで引き返していった。発見と、戦いと……痛みの刻まれた空き地を後に残して。




