第11話 影踏み
《森林保護区》から吹きつける身を切るような風が、《防衛線》に強く吹き荒れ、当番の二人の兵士のもとへ歩いていくアートとダイアナの髪を揺らしていた。
アスカは腕を後ろで組んでいた。桃色の髪の《シールダー》は真剣な表情で地平線を見つめ、その隣では、ぼさぼさの灰色の髪をした《ランサー》のアリクが、槍の柄を苛立たしげに指で叩いていた。
「師匠!」
アスカは、彼女に会えたのが嬉しそうに言った。
「やっと来てくれましたね! ここで凍えちゃうかと思いました」
「あらぁ! 二人とも、氷の像になったらきっと素敵だったのに」
ダイアナは口の端に笑みを浮かべた。
「は、は。面白いな……」
アリクが皮肉っぽく言った。
彼はほっとしたように息をつき、軽く首を後ろへ向けた。急に湧いてきた落ち着かなさをごまかす、一番いい言い訳を探していた。少し離れたところにいる人物を、こっそり見やる。《サポート部隊》のリーダー、エララだった。
《ランサー》は眉をひそめた。立ち去りたいという自分の気持ちと戦っていた。
「うーん……もう少しいてもいいかな」
うなじを掻きながら、彼はつぶやいた。
ダイアナは片眉を上げた。
「ああ、なるほど。エララのそばから離れたくないんだ」
アスカは笑い、アリクの肩を軽く小突いた。
「誰かさん、恋してるみたいですね」
「ち、違う!」
彼は顔を赤くして目を逸らした。
言い訳をひねり出す前に、エララが近づいてきた。いつものように真剣な表情だった。情熱的で、どんな試練の前でも恐れを知らない女性だった。彫刻のような体つきで、どこへ行っても人目を引いた。背は低いものの、戦闘ではきわめて身軽なことで知られていた。
肩にかかる赤毛の巻き髪と緑の瞳は、その活発な性格を映していた。銀の装飾が施された緑のチュニックを着て、繊細なヘアバンドとエメラルドのイヤリングをつけていた。
「あんたたち二人は、ここから出ていきなさい」
その声は、議論の余地を残さなかった。
アスカは頬をふくらませてむくれ、それから自分の気持ちを確かめるようにダイアナを見た。
「私が残りたいって言ったら?」
「だめ!」
エララは背を向け、これ以上の抗議を一切受けつけなかった。ぶつぶつ言いながら、アスカとアリクはようやく持ち場を離れ、アートとダイアナが見張りを引き継いだ。
◇
ドームは、見えない城壁のように王国の上に弧を描き、きらめいていた。前方の開けた野原では、ドームを越えようとする魔物たちのまばらな唸り声だけが、静寂を破っていた。その突進は、魔法の障壁の前では無駄だった。
「今日は少ないね」
ダイアナが言った。
「みんな野営地にいるんだろ」
アートが答えた。
「野営地?」
「見てないのか?」
「何の話?」
「キャノンで任務に飛ばされた日……上空から、あの山の向こうに野営地が見えたんだ。たぶん、このオークたちのだ」
「全然気づかなかった……あ! どうでもいいか。どうせ私たちは、ここに閉じ込められてるんだし」
「じゃあ、リサのことはどう説明する?」
その問いのあとに、考え込むような沈黙が続いた。二人とも、地平線を見つめたままだった。
二人は、ドームは絶対のものだと信じて育った――王国の建国以来、何者も通さず、決して変わることのない盾。守りの最高の象徴。あのトンネルに現れたリサのように、その信念を覆す者を見るのは、伝説が崩れ落ちるのを目にするようなものだった。それは、二人が安全だと思っていたすべてのものに、ひびを入れた。
「ちょっと考えてたんだけど……どうしてリサがトンネルにいるってわかったの? っていうか、どうしてあんな場所があるって知ってたの?」
数えきれない疑問が頭を駆けめぐる中、ダイアナが尋ねた。
「俺は……」
アートはためらった。だが、続ける前に、遠くの動きが彼の注意を引いた。
「待て、あれってシルヴェインか?」
若者は、この辺りの最後の家々が並ぶ場所を指さした。
「そうみたい。なんであんなところに? 今日はもう上がったはずなのに……」
若い《シールダー》は、汚れた顔とすり切れた服の子どもたちに囲まれていた。優しい笑みを浮かべて、籐のかごから小さなパンを取り出しては、丁寧に配っていた。
そのたびに、子どもの髪をなで、その目線まで身をかがめた。何かを言って、子どもたちを笑わせていた。その動きは穏やかで、心がこもっていた。一人一人の子どもが、かけがえのない大切な存在であるかのように。いつも身にまとっている軍人の厳しさは、その瞬間には消え去り、驚くほどの優しさがあらわになっていた。筋肉質な体と、優しい心の対比。
「すごい人……」
その光景を見つめながら、ダイアナがつぶやいた。
視線に気づいたシルヴェインは、両腕を上げて笑った。仲間たちの存在を、自分だけの使命の味方を見つけたかのように迎えた。
太陽はゆっくりと別れを告げ、空を柔らかな橙色に染めていた。二人は辺りを見回した。エララは近くにいない。《監視塔》の根元に寄りかかって、無駄話をしている兵士が数人いるだけだった。その隙に、アートとダイアナは持ち場を離れた。規則を破りたいという気持ちよりも、好奇心と敬意に導かれて。
シルヴェインに近づいても、二人は何も言わなかった。ただ見ていた。
「私も、こうやって育ったの」
二人の考えをほとんど見抜いたかのように、彼女は言った。
「引退した《シールダー》のおばあさんに引き取られる前は、これが私の生活だった。飢えを知ってる。寒さを知ってる」
彼女は、髪がもつれ、手の汚れた一人の子どもに目を落とした。その子はパンをあまりに強く握りしめていて、指がかすかに震えていた。
「一人で全部を変えられないのは、わかってる」
彼女は赤い髪の一房を耳の後ろにかけた。
「でも、自分にできることはできる」
《シールダー》の友人の言葉は、思いがけずアートの胸を打った。そこには芝居がかった英雄ぶりも、用意された演説もなかった。彼女は自分自身に語りかけていた。傷跡と記憶によって形づくられた、心の奥の誓いを確かめるように。
◇
数分後、二人は持ち場に戻った。シルヴェインもついてきて、二人がそれぞれの位置につくと、言った。
「で、そういうこと! ここで罰を受けるのは、いつまでなの?」
彼女は尋ねた。
「たぶん三時間後の交代までかな」
ダイアナはふてくされたように息を吐いた。
「たーいーくーつー!」
「一緒にいるか?」
アートが、ふざけた笑みを浮かべて言った。
「まあ……悪くない考えかもね」
彼女も、いたずらっぽい笑みを浮かべて答えた。
「今日はまだ訓練してないし」
アートとダイアナは、同時に顔を見合わせた。言葉は要らなかった。退屈は風に舞う塵のように消え去り、代わりに目に火花が宿った。抑えていた、動きたい、力を競いたい、生きていると実感したいという思い。
「うーん……時間をつぶすには、そのほうがいいな」
若い魔法使いは、準備運動をするように肩を回しながら言った。
「よし……《影踏み》をやろうよ。私が審判ね」
ダイアナが、ジャケットを整えながら付け加えた。
シルヴェインはただ笑い、もう開けた場所のほうへ歩き出していた。
「いいわ! この罰を訓練に変えてやりましょう」
アートが指を地面に押し当てると、手の下にかすかな琥珀色の光が灯り、固い石の線が浮かび上がって、踏み固められた土の上に正確な長方形を描いた。注目の視線を浴びながら、即席の闘技場が形を成していく。他の二人が出来上がった場所に位置につく間、ダイアナは線に沿って歩き、地面の印を確かめていた。
「覚えてる? アートが場外につまずいただけで、オリバーが自分の勝ちだって言い張ったときのこと」
彼女は、半分笑いながら言った。
「あいつ、まだ攻撃すらしてなかったのに」
「あいつに言わせれば、心理的なプレッシャーも戦術のうちらしい」
彼は言い返した。
シルヴェインが小さく笑った。
「それで『影の将軍』が生まれたのね? もう少しで正式なあだ名になるところだった」
「あいつが私たちの友達だった頃が、懐かしいな」
ダイアナの表情が曇った。
「そもそも、どうしてあんなに嫌なやつになったのか、私はよくわからないのよね」
《シールダー》が言った。
「俺たちのせいじゃない。あいつは自分で選んだんだ」
アートが付け加えた。
「でも、その話はもうおしまい……やろう!」
三人はわくわくした笑みを浮かべた。結局のところ、これ以上ないほど退屈な任務を引き受けるのなら……自分たちのやり方でやればいい。
◇
シルヴェインは背中のホルダーから盾を外し、すばやく正確に一回転させて、まるで体の一部であるかのように左腕に固定した。
アートも同じように、しっかりとその動きに応えた。足を踏ん張り、肩の力を抜いて身を低くする――まるで一つ一つの筋肉が、ぶつかり合いを待っているかのように。目を上げたとき、その瞳にはすでに決意が宿っていた。
「私をこのエリアの外に出せたら、あなたの勝ち!」
彼女は言った。
「でも、攻撃できるのは五回までよ」
「上等だ!」
彼は声を上げた。
「ダイアナ! 合図をくれたら始めるぞ」
彼は両腕にマナを流し込んだ。
小さな石が拳の周りに生まれ、生きた鎧のように両手を包み込んでいった。その亀裂から、細かな塵がわずかにこぼれていた。
「これは要らないな!」
彼は付け加えた。腰から短剣を抜き、エリアの外へ放り投げた。
若い《アーチャー》は、小さな闘技場の脇へ歩いていった。
「三……二……一……始め!」
ザシュッ!
アートは、切り裂く稲妻のように素早く飛び出した。腕を振るたびに、石の拳がわずかに崩れていく。シルヴェインは闘技場の中で身構え、両足で地面を力強く踏みしめた。まるで大地が彼女の一部になったかのように。
踏み固められた土を打つ乾いた足音が、軍太鼓のように空き地の静寂を切り裂いた。《監視塔》の近くにいた兵士たちが、突然の騒ぎに引き寄せられ、すぐに振り向いた。
あっという間に、戦いの周りに人の輪ができた。位置を取ろうとするブーツが地面をきしませる――誰もが見入り、目を逸らそうとする者はいなかった。
若い魔法使いは、まず真正面からの一撃で、盾の中心を狙った。相手の構えがどれほど固いのかを、確かめるためだけに。衝撃は押し殺した雷鳴のように響き、周りの木々にまで反響した。
地面から土煙が爆発するように舞い上がり、二人を濁った雲で包み込んで、観客から押し殺したため息を引き出した。だが、視界が晴れたとき、彼女はまだそこにいた。鉄で彫られた像のように、揺るぎなく。《シールダー》は一歩たりとも退かなかった。
「一撃目」
彼女は微笑んだ。その目は、楽しさに輝いていた。
アートは一つの動きで自分の軸を中心に回転し、二発目の拳を放った。今度は盾の縁を狙っていた。シルヴェインは、稽古を積んだ踊りをなぞるかのように、彼の狙いを読んだ。足をわずかに引いて、衝撃を重心から逸らし、安定を失うことなく一撃の力を散らした。
「二撃目」
アートは歯を食いしばり、新しい作戦を探した。正面から攻めても効果はない。こんなやり方では、決して彼女を押し出せない。
彼は深く息を吸い、膝を曲げて跳んだ。着地と同時に、自分の体の周りに土煙を巻き上げ、《シールダー》の視界を惑わせた。相手のすぐそばまで迫ると、右へ踏み込むと見せかけて、最後の一瞬で急に左へ切り返した。彼女の不意を突くことを願って。
石の拳が、彼女の軸足を狙って力強く振り下ろされた。
今度の衝撃は、さっきより強かった。シルヴェインはよろめき、足が土を後ろへ引きずった。だが、倒れる前に、腕のホルダーから盾を外し、地面に力いっぱい突き立てて、体勢を立て直した。
「三撃目」
その声はまだ落ち着いた響きを帯びていたが、その目は友人の作戦への敬意を示していた。
彼は、もっと工夫しなければならないとわかっていた。一瞬目を閉じ、両腕を広げた。大地が震えた。足元の地面が、呼びかけに応えた。指を開いて地面に触れると、まるで眠っていた何かを目覚めさせたかのように、周りに土煙の輪が立ちのぼった。
そして、土の柱が次々と列をなして突き出した。シルヴェインは目を見開き、跳んで後ろへ下がった。柱の一本が、彼女の脚をかすめた。
間を置かず、アートは足の下に水を流し込み、青みがかった噴流に押されて、矢のように前へ飛び出した。一瞬のうちに、彼女の目の前にいた。蹴りが、まっすぐ、正確に放たれた。
若い《シールダー》は屈しなかった。とっさに腕から盾を外して投げ、力の一部を食い止める壁として使った。その衝撃で盾は闘技場の外へ弾き飛ばされ、観客の間に金属的な音を立てて落ちた。
彼女は横向きに着地した。息を切らしていたが、立っていた。まだ境界線の内側に。
「四撃目」
盾を失いながらも、両腕を上げて構え、続ける準備を整えたまま、彼女は告げた。
アートは尻もちをつき、荒い息を吐いた。残されたチャンスは、あと一回だけ。即席の闘技場の縁に目を据え、彼の頭は出口を求めて沸き立った。そのとき、ひらめきが訪れた――はっきりと、唐突に――指を鳴らすように。
彼はゆっくりと立ち上がり、肩の力を抜いた。額の汗を拭う。そして、何の前触れもなく、腕をだらりとさせ、ぎこちない体勢で突進した。観客はその動きを疲れのせいだと思ったが、すべては芝居だった。
シルヴェインは片足を前に出し、自分の体で衝撃を受け止める構えを取った――まさに、アートの狙いどおりに。その瞬間、アートは彼女の守りの下へ滑り込み、彼女の背後の地面に正確な拳を叩き込んで、土の壁をせり上げた。続けざまに、三つの風の刃が空を切り、彼女の体の脇すれすれを通り過ぎて、さらに体勢を崩した。
《シールダー》が反応する前に、その片足はすでに闘技場の線を越えていた。
完全な静寂が漂った。
ダイアナが爆笑した――すぐに周りの兵士たちもそれに続き、熱狂的に戦いを讃えた。何しろ――ほんのわずかな時間とはいえ――それは彼らを退屈から救い出してくれたのだ。
「あははは! 信じられない! 見事に引っかかったね!」
シルヴェインは驚いてまばたきし、それから口の端に笑みを浮かべた。息を切らしているアートを見た。
「お見事! 今回は本当にやられたわ」
彼女はそう言って、彼が立ち上がれるように手を差し出した。
「で? 今、罰を受けてるのはどっちだ?」
アートは冗談めかして言い、彼女の腕を軽く小突いた。
《シールダー》は大笑いした。罰と義務のただ中にあっても、三人は楽しむ方法を見つけたのだ。
「ずっと、あなたは弱いと思ってた……でも、ここ数日は驚かされてばかりなのは認めるわ」
シルヴェインはうなじを掻いた。
「あなた、全部の属性への適性が高いみたいね」
「だといいんだけどな……」
「《オーロラ軍》のカード、持ってる?」
彼女が遮った。
「見せて!」
「持ってるけど……なんでそんなに張り切ってるんだ?」
アートは腰の帯からカードを取り出した。シルヴェインはそれを受け取り、声に出して読み上げた。
「《奔流》9? すごい! とんでもないマナね!」
黄色い目を見開いて、彼女は言った。
「適性も見てみましょう……炎、《ルーン》三つ。大地、《ルーン》三つ。水、《ルーン》二つ。そして風、《ルーン》一つ」
「わかった! もう十分だろ……」
アートが遮った。彼女がそれ以上何か言う前に、ほとんど乱暴なほどそっけない動きで、カードを取り返した。
「なんでそんなに神経質になってるの? 誇りに思うべきよ……全属性に適性があって、マナの蓄えもほとんど最大値。すごいことじゃない! やっぱりお父さんの息子ね……」
アートはうつむき、暗い表情でカードをしまった。
「さっさと持ち場に戻るよ……」
ダイアナは、友人が離れていくのを待ちながら、《シールダー》の友人のそばにもう少しとどまった。
「今のは何?」
突然の態度が理解できず、シルヴェインが尋ねた。
「あいつ、自分の能力値を見せるのが好きじゃないの。いつも同じ。小さい頃から、お父さんの影から抜け出そうとしてるのよ。わかるでしょ? 自分の道を見つけようとしてる。私も、その気持ちはなんとなくわかるんだ」
「ふうん! 気づかなかった。まあ、私は親なしで育ったから」
彼女は、ばつが悪そうに笑った。
「ごめんねって伝えておいてくれる?」
「気にしないで、ね! あいつ、家族のことでいろいろあって、ちょっといつもと違うだけだから。心配しないで!」
「そう……」
シルヴェインは抑えたため息をつき、空へ視線を逸らした。
「そろそろ行かなきゃ。また明日!」
「またね!」
シルヴェインはゆっくりとした足取りで去っていった。ダイアナは、アートの隣の持ち場に戻った。
◇
二人が持ち場を離れ、家へ向かって歩き出したとき、夜はすでに王国を包み込んでいた。空は深い青に染まり、重い雲が月の光を覆い隠していた。
長く立ちっぱなしだったせいで体のあちこちが少し痛み、退屈の重みが、濡れた毛布のように背中にまとわりついていた。
「とにかくお風呂に入って、何か食べたい……」
ダイアナは両腕を高く伸ばしながら、つぶやいた。
「できれば、逆の順番で」
「食べることばっかりだな、ふうん? よかったら、先に市場に寄ってもいい。夕飯に、ちょっと考えがあるんだ。リサも気に入ると思う」
「また、あなたの『ルミニスのスープ』じゃなければね……」
「本気か!? あれには個性があったんだぞ」
彼は憤慨したふりをして言い返した。
南のにぎやかな通りを抜けながら、二人は一緒に笑った。やがて《商業区》に着き、いつも行く市場へ向かった。
市場は夜の薄闇に沈み、人がまばらになり始めていた。すり切れた帆布の屋台がきしみ、最後の商人たちが黙って品物を包んでいた。疲れた視線を交わしながら。
《王国衛兵》の兵士たちが二人一組で巡回し、ランプに火を灯して、湿った石の街角に金色の輪を落としていた。遠くでは、酒場からリュートの音と笑い声が響いていた。そこでは、夜が物語と歌を約束していた。その音が、熟した果物や革や煙の、しつこく残る土くさい香りと混じり合っていた。日が暮れても続く市場ならではの匂いだった。
ダイアナはいくつかの果物を手に取り、見せた。
「見て! ここ、新鮮なルミニスの実があるよ!」
彼女は匂いをかいだ。
「おいしそう! デザートに買っていかない? でも、スープにするのはなしでね……」
アートは微笑んだ。リンゴをいくつか、かごに入れていた。
「いい考えだ。それと、お前の好きな肉も買っていくのはどうだ? 今日は特別なものがいい。それに、リサもきっと腹ぺこだろうし」
《アーチャー》は顔を赤らめながら、嬉しそうに頷いた。
二人は市場を進んだ。今日一日のことをさらに話しながら、いくつかの品物を手に取っていった。
「少なくとも、ゲームをする時間はあるしな。マークがいかさまをしようとしたの、覚えてるか? 隠したカード、誰にも見えてないと思ってるんだ」
アートが言った。
ダイアナは大笑いした。
「うん、あの人はもう手遅れ。いかさま師でも、いい友達だけどね」
若い魔法使いは気が緩んでいたが、友人のほうは、ここ最近の出来事のせいで、まだ緊張を解けずにいた。前回の任務での待ち伏せ。見知らぬトンネル。リサの出現。そして、すべてを打ち明けてはくれない友人の態度。それでも、何も言わないことにした。二人で分かち合っているこの時間が、嬉しかったのだ。
離れたところ、閉まった二軒の店の間にある狭い路地の影に包まれて、フードの男が二人を見張っていた。痩せて背の曲がったその体は、ほとんど動かなかった。ただ目だけが――黄色みを帯びた二つの鮮やかな光点が――フードの下で輝き、周囲の光を映しながら、獲物をうかがう捕食者の目のように、若者たちに据えられていた。
最後の食料を抱えて、細い路地を家へ向かって歩いていると、ダイアナはうなじを寒気が這い上がるのを感じた。その嫌な感覚が、彼女を不安にさせた。
彼女は道すがら、何度かさりげなく肩越しに振り返った。
「大丈夫か?」
それに気づいたアートが尋ねた。
「誰かを見た気がしたの……でも、たぶん気のせい」
彼は頷いたが、家を囲む低い鉄の門にたどり着くまで、感覚を研ぎ澄ませていた。
扉を開けると、乾いた葉と薬草の油の心地よい香りが二人を迎えた。居間は見違えるほど片付いていた。クッションは整えられ、本は書棚にきちんと並べられ、小さなランプがいくつも灯されて、温かな雰囲気を作っていた。居間の中央には、新鮮な果物のかごが床の上に丁寧に置かれ、灯された三本の蝋燭に囲まれていた。
小さなエルフはかごの近くに座っていた。足を組み、輝く目で二人を見つめている。耳の後ろの髪には青い花が挿され、膝の上には開いた本が載っていた。
「おかえり……なさい」
彼女ははにかんだ笑みを浮かべて言った。その声はまだゆっくりと穏やかなリズムだったが、今では文がずっと完全になっていた。
「わたし……全部、きれいにした。二人を待ってたの」
アートとダイアナはすぐに微笑んだ。ただし、理由はそれぞれ違った。優しい心づかいを嬉しく思う一方で、物の並べ方に気づいて、こらえた笑いを隠しきれなかったのだ。
「リサ……どうして、かごとランプを床に置いたの?」
ダイアナが尋ねた。
「これは……わたしの民の習わし。やって来た人に……光と食べ物を、差し出すの」
「素敵だな」
アートは吹き出すのを必死にこらえていた。
「ただ、ここではそういうのに慣れてないだけなんだ」
リサは首をかしげた。二人の反応に、見るからに戸惑っていた。彼女はかごを見て、次にランプを見て、それからもう一度二人を見つめた。
「……間違い、だった?」
「ううん……」
二人は同時に言った。
「すごく嬉しい!」
ダイアナが付け加えた。
和やかな空気の中、疲れが心地よさへと変わり始め、三人は一緒に夕食を作るために台所へ行った。リサは――ダイアナの見守りのもとで――丁寧に材料を切るのを手伝い、アートは熟練の料理人のような顔で鍋をかき混ぜていた。どう見ても、そう思っているのは本人だけだったが。
「それで……どこから来たのか、覚えてるか?」
アートが沈黙を破った。
「うん、でも……どうやってここに来たのかは……覚えてない。全部が……」
リサは片手を頭に当てた。
「やめなさい、アート! 今はそういう時じゃないでしょ!」
ダイアナが叱った。
「お姫様、今は無理しなくていいのよ。ゆっくりでいいから、きっと思い出せる。私が保証する!」
彼女は小さな子の頭に手を置きながら、そう付け加えた。
アートは目を閉じ、顔を上げてため息をついた。
「悪かった!……じゃあ、話を変えるけど、どうやってそんなに話すのがうまくなったんだ?」
「たくさん、読んだの!」
ダイアナは友人を見つめた。二人の頭は疑問でいっぱいだった。このエルフは、どうしてこんなに簡単に人間の言葉を覚えられたのだろう?
二人の心配をよそに時は過ぎ、料理の匂いが部屋を満たした。そのとき、玄関の扉を叩く、乾いた力強い音が響いた。
ドン! ドン! ドン!
全員が一瞬動きを止めた。その音は、静かな湖に投げ込まれた石のように、穏やかな空気を破った。アートはダイアナと視線を交わした。
「あなたのお父さん?」
彼女が尋ねた。
「いや! 今日は水曜日だ。父さんは水曜日には絶対に来ない」
彼は小声で答えた。
「お前……誰かにつけられてる気がするって言ったの、冗談だったよな?」
「知らないわよ! ただの気のせいだと思ったんだもん」
「リサを隠してくれ。俺が出る」
ダイアナは弓を手に取り、物音一つ立てないように、猫のような足取りで歩いた。
リサは――まだ台所に立ったまま――紫色の目を見開いて、扉のほうを見ていた。ありがたい訪問者ではないことは、彼女にも理解できた。ランプの光が揺らめき、壁に不安定な影を落としていた。
ドン! ドン! ドン!
アートは深く息を吸った。体の横で手を握りしめ、肌の下で魔力が脈打つのを感じた。扉を叩く音は、前触れのように、まだ頭の中で響いていた。扉の向こうに誰がいるのかはわからなかった。だが、何が来ようとも、覚悟はできていた。




