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第11話 影踏み

《森林保護区》から吹きつける身を切るような風が、《防衛線》に強く吹き荒れ、当番の二人の兵士のもとへ歩いていくアートとダイアナの髪を揺らしていた。


 アスカは腕を後ろで組んでいた。桃色の髪の《シールダー》は真剣な表情で地平線を見つめ、その隣では、ぼさぼさの灰色の髪をした《ランサー》のアリクが、槍の柄を苛立たしげに指で叩いていた。


「師匠!」

 アスカは、彼女に会えたのが嬉しそうに言った。

「やっと来てくれましたね! ここで凍えちゃうかと思いました」

「あらぁ! 二人とも、氷の像になったらきっと素敵だったのに」

 ダイアナは口の端に笑みを浮かべた。

「は、は。面白いな……」

 アリクが皮肉っぽく言った。


 彼はほっとしたように息をつき、軽く首を後ろへ向けた。急に湧いてきた落ち着かなさをごまかす、一番いい言い訳を探していた。少し離れたところにいる人物を、こっそり見やる。《サポート部隊》のリーダー、エララだった。


 《ランサー》は眉をひそめた。立ち去りたいという自分の気持ちと戦っていた。


「うーん……もう少しいてもいいかな」

 うなじを掻きながら、彼はつぶやいた。


 ダイアナは片眉を上げた。


「ああ、なるほど。エララのそばから離れたくないんだ」

 アスカは笑い、アリクの肩を軽く小突いた。

「誰かさん、恋してるみたいですね」

「ち、違う!」

 彼は顔を赤くして目を逸らした。


 言い訳をひねり出す前に、エララが近づいてきた。いつものように真剣な表情だった。情熱的で、どんな試練の前でも恐れを知らない女性だった。彫刻のような体つきで、どこへ行っても人目を引いた。背は低いものの、戦闘ではきわめて身軽なことで知られていた。


 肩にかかる赤毛の巻き髪と緑の瞳は、その活発な性格を映していた。銀の装飾が施された緑のチュニックを着て、繊細なヘアバンドとエメラルドのイヤリングをつけていた。


「あんたたち二人は、ここから出ていきなさい」

 その声は、議論の余地を残さなかった。


 アスカは頬をふくらませてむくれ、それから自分の気持ちを確かめるようにダイアナを見た。


「私が残りたいって言ったら?」

「だめ!」


 エララは背を向け、これ以上の抗議を一切受けつけなかった。ぶつぶつ言いながら、アスカとアリクはようやく持ち場を離れ、アートとダイアナが見張りを引き継いだ。


◇


 ドームは、見えない城壁のように王国の上に弧を描き、きらめいていた。前方の開けた野原では、ドームを越えようとする魔物たちのまばらな唸り声だけが、静寂を破っていた。その突進は、魔法の障壁の前では無駄だった。


「今日は少ないね」

 ダイアナが言った。

「みんな野営地にいるんだろ」

 アートが答えた。

「野営地?」

「見てないのか?」

「何の話?」

「キャノンで任務に飛ばされた日……上空から、あの山の向こうに野営地が見えたんだ。たぶん、このオークたちのだ」

「全然気づかなかった……あ! どうでもいいか。どうせ私たちは、ここに閉じ込められてるんだし」

「じゃあ、リサのことはどう説明する?」


 その問いのあとに、考え込むような沈黙が続いた。二人とも、地平線を見つめたままだった。


 二人は、ドームは絶対のものだと信じて育った――王国の建国以来、何者も通さず、決して変わることのない盾。守りの最高の象徴。あのトンネルに現れたリサのように、その信念を覆す者を見るのは、伝説が崩れ落ちるのを目にするようなものだった。それは、二人が安全だと思っていたすべてのものに、ひびを入れた。


「ちょっと考えてたんだけど……どうしてリサがトンネルにいるってわかったの? っていうか、どうしてあんな場所があるって知ってたの?」

 数えきれない疑問が頭を駆けめぐる中、ダイアナが尋ねた。

「俺は……」

 アートはためらった。だが、続ける前に、遠くの動きが彼の注意を引いた。

「待て、あれってシルヴェインか?」

 若者は、この辺りの最後の家々が並ぶ場所を指さした。

「そうみたい。なんであんなところに? 今日はもう上がったはずなのに……」


 若い《シールダー》は、汚れた顔とすり切れた服の子どもたちに囲まれていた。優しい笑みを浮かべて、籐のかごから小さなパンを取り出しては、丁寧に配っていた。


 そのたびに、子どもの髪をなで、その目線まで身をかがめた。何かを言って、子どもたちを笑わせていた。その動きは穏やかで、心がこもっていた。一人一人の子どもが、かけがえのない大切な存在であるかのように。いつも身にまとっている軍人の厳しさは、その瞬間には消え去り、驚くほどの優しさがあらわになっていた。筋肉質な体と、優しい心の対比。


「すごい人……」

 その光景を見つめながら、ダイアナがつぶやいた。


 視線に気づいたシルヴェインは、両腕を上げて笑った。仲間たちの存在を、自分だけの使命の味方を見つけたかのように迎えた。


 太陽はゆっくりと別れを告げ、空を柔らかな橙色に染めていた。二人は辺りを見回した。エララは近くにいない。《監視塔》の根元に寄りかかって、無駄話をしている兵士が数人いるだけだった。その隙に、アートとダイアナは持ち場を離れた。規則を破りたいという気持ちよりも、好奇心と敬意に導かれて。


 シルヴェインに近づいても、二人は何も言わなかった。ただ見ていた。


「私も、こうやって育ったの」

 二人の考えをほとんど見抜いたかのように、彼女は言った。

「引退した《シールダー》のおばあさんに引き取られる前は、これが私の生活だった。飢えを知ってる。寒さを知ってる」


 彼女は、髪がもつれ、手の汚れた一人の子どもに目を落とした。その子はパンをあまりに強く握りしめていて、指がかすかに震えていた。


「一人で全部を変えられないのは、わかってる」

 彼女は赤い髪の一房を耳の後ろにかけた。

「でも、自分にできることはできる」


 《シールダー》の友人の言葉は、思いがけずアートの胸を打った。そこには芝居がかった英雄ぶりも、用意された演説もなかった。彼女は自分自身に語りかけていた。傷跡と記憶によって形づくられた、心の奥の誓いを確かめるように。


◇


 数分後、二人は持ち場に戻った。シルヴェインもついてきて、二人がそれぞれの位置につくと、言った。


「で、そういうこと! ここで罰を受けるのは、いつまでなの?」

 彼女は尋ねた。

「たぶん三時間後の交代までかな」

 ダイアナはふてくされたように息を吐いた。

「たーいーくーつー!」

「一緒にいるか?」

 アートが、ふざけた笑みを浮かべて言った。

「まあ……悪くない考えかもね」

 彼女も、いたずらっぽい笑みを浮かべて答えた。

「今日はまだ訓練してないし」


 アートとダイアナは、同時に顔を見合わせた。言葉は要らなかった。退屈は風に舞う塵のように消え去り、代わりに目に火花が宿った。抑えていた、動きたい、力を競いたい、生きていると実感したいという思い。


「うーん……時間をつぶすには、そのほうがいいな」

 若い魔法使いは、準備運動をするように肩を回しながら言った。

「よし……《影踏み》をやろうよ。私が審判ね」

 ダイアナが、ジャケットを整えながら付け加えた。


 シルヴェインはただ笑い、もう開けた場所のほうへ歩き出していた。


「いいわ! この罰を訓練に変えてやりましょう」


 アートが指を地面に押し当てると、手の下にかすかな琥珀色の光が灯り、固い石の線が浮かび上がって、踏み固められた土の上に正確な長方形を描いた。注目の視線を浴びながら、即席の闘技場が形を成していく。他の二人が出来上がった場所に位置につく間、ダイアナは線に沿って歩き、地面の印を確かめていた。


「覚えてる? アートが場外につまずいただけで、オリバーが自分の勝ちだって言い張ったときのこと」

 彼女は、半分笑いながら言った。

「あいつ、まだ攻撃すらしてなかったのに」

「あいつに言わせれば、心理的なプレッシャーも戦術のうちらしい」

 彼は言い返した。


 シルヴェインが小さく笑った。


「それで『影の将軍』が生まれたのね? もう少しで正式なあだ名になるところだった」

「あいつが私たちの友達だった頃が、懐かしいな」

 ダイアナの表情が曇った。

「そもそも、どうしてあんなに嫌なやつになったのか、私はよくわからないのよね」

 《シールダー》が言った。

「俺たちのせいじゃない。あいつは自分で選んだんだ」

 アートが付け加えた。

「でも、その話はもうおしまい……やろう!」


 三人はわくわくした笑みを浮かべた。結局のところ、これ以上ないほど退屈な任務を引き受けるのなら……自分たちのやり方でやればいい。


◇


 シルヴェインは背中のホルダーから盾を外し、すばやく正確に一回転させて、まるで体の一部であるかのように左腕に固定した。


 アートも同じように、しっかりとその動きに応えた。足を踏ん張り、肩の力を抜いて身を低くする――まるで一つ一つの筋肉が、ぶつかり合いを待っているかのように。目を上げたとき、その瞳にはすでに決意が宿っていた。


「私をこのエリアの外に出せたら、あなたの勝ち!」

 彼女は言った。

「でも、攻撃できるのは五回までよ」

「上等だ!」

 彼は声を上げた。

「ダイアナ! 合図をくれたら始めるぞ」

 彼は両腕にマナを流し込んだ。


 小さな石が拳の周りに生まれ、生きた鎧のように両手を包み込んでいった。その亀裂から、細かな塵がわずかにこぼれていた。


「これは要らないな!」

 彼は付け加えた。腰から短剣を抜き、エリアの外へ放り投げた。


 若い《アーチャー》は、小さな闘技場の脇へ歩いていった。


「三……二……一……始め!」


 ザシュッ!


 アートは、切り裂く稲妻のように素早く飛び出した。腕を振るたびに、石の拳がわずかに崩れていく。シルヴェインは闘技場の中で身構え、両足で地面を力強く踏みしめた。まるで大地が彼女の一部になったかのように。


 踏み固められた土を打つ乾いた足音が、軍太鼓のように空き地の静寂を切り裂いた。《監視塔》の近くにいた兵士たちが、突然の騒ぎに引き寄せられ、すぐに振り向いた。


 あっという間に、戦いの周りに人の輪ができた。位置を取ろうとするブーツが地面をきしませる――誰もが見入り、目を逸らそうとする者はいなかった。


 若い魔法使いは、まず真正面からの一撃で、盾の中心を狙った。相手の構えがどれほど固いのかを、確かめるためだけに。衝撃は押し殺した雷鳴のように響き、周りの木々にまで反響した。


 地面から土煙が爆発するように舞い上がり、二人を濁った雲で包み込んで、観客から押し殺したため息を引き出した。だが、視界が晴れたとき、彼女はまだそこにいた。鉄で彫られた像のように、揺るぎなく。《シールダー》は一歩たりとも退かなかった。


「一撃目」

 彼女は微笑んだ。その目は、楽しさに輝いていた。


 アートは一つの動きで自分の軸を中心に回転し、二発目の拳を放った。今度は盾の縁を狙っていた。シルヴェインは、稽古を積んだ踊りをなぞるかのように、彼の狙いを読んだ。足をわずかに引いて、衝撃を重心から逸らし、安定を失うことなく一撃の力を散らした。


「二撃目」


 アートは歯を食いしばり、新しい作戦を探した。正面から攻めても効果はない。こんなやり方では、決して彼女を押し出せない。


 彼は深く息を吸い、膝を曲げて跳んだ。着地と同時に、自分の体の周りに土煙を巻き上げ、《シールダー》の視界を惑わせた。相手のすぐそばまで迫ると、右へ踏み込むと見せかけて、最後の一瞬で急に左へ切り返した。彼女の不意を突くことを願って。


 石の拳が、彼女の軸足を狙って力強く振り下ろされた。


 今度の衝撃は、さっきより強かった。シルヴェインはよろめき、足が土を後ろへ引きずった。だが、倒れる前に、腕のホルダーから盾を外し、地面に力いっぱい突き立てて、体勢を立て直した。


「三撃目」

 その声はまだ落ち着いた響きを帯びていたが、その目は友人の作戦への敬意を示していた。


 彼は、もっと工夫しなければならないとわかっていた。一瞬目を閉じ、両腕を広げた。大地が震えた。足元の地面が、呼びかけに応えた。指を開いて地面に触れると、まるで眠っていた何かを目覚めさせたかのように、周りに土煙の輪が立ちのぼった。


 そして、土の柱が次々と列をなして突き出した。シルヴェインは目を見開き、跳んで後ろへ下がった。柱の一本が、彼女の脚をかすめた。


 間を置かず、アートは足の下に水を流し込み、青みがかった噴流に押されて、矢のように前へ飛び出した。一瞬のうちに、彼女の目の前にいた。蹴りが、まっすぐ、正確に放たれた。


 若い《シールダー》は屈しなかった。とっさに腕から盾を外して投げ、力の一部を食い止める壁として使った。その衝撃で盾は闘技場の外へ弾き飛ばされ、観客の間に金属的な音を立てて落ちた。


 彼女は横向きに着地した。息を切らしていたが、立っていた。まだ境界線の内側に。


「四撃目」

 盾を失いながらも、両腕を上げて構え、続ける準備を整えたまま、彼女は告げた。


 アートは尻もちをつき、荒い息を吐いた。残されたチャンスは、あと一回だけ。即席の闘技場の縁に目を据え、彼の頭は出口を求めて沸き立った。そのとき、ひらめきが訪れた――はっきりと、唐突に――指を鳴らすように。


 彼はゆっくりと立ち上がり、肩の力を抜いた。額の汗を拭う。そして、何の前触れもなく、腕をだらりとさせ、ぎこちない体勢で突進した。観客はその動きを疲れのせいだと思ったが、すべては芝居だった。


 シルヴェインは片足を前に出し、自分の体で衝撃を受け止める構えを取った――まさに、アートの狙いどおりに。その瞬間、アートは彼女の守りの下へ滑り込み、彼女の背後の地面に正確な拳を叩き込んで、土の壁をせり上げた。続けざまに、三つの風の刃が空を切り、彼女の体の脇すれすれを通り過ぎて、さらに体勢を崩した。


 《シールダー》が反応する前に、その片足はすでに闘技場の線を越えていた。


 完全な静寂が漂った。


 ダイアナが爆笑した――すぐに周りの兵士たちもそれに続き、熱狂的に戦いを讃えた。何しろ――ほんのわずかな時間とはいえ――それは彼らを退屈から救い出してくれたのだ。


「あははは! 信じられない! 見事に引っかかったね!」


 シルヴェインは驚いてまばたきし、それから口の端に笑みを浮かべた。息を切らしているアートを見た。

「お見事! 今回は本当にやられたわ」

 彼女はそう言って、彼が立ち上がれるように手を差し出した。

「で? 今、罰を受けてるのはどっちだ?」

 アートは冗談めかして言い、彼女の腕を軽く小突いた。


 《シールダー》は大笑いした。罰と義務のただ中にあっても、三人は楽しむ方法を見つけたのだ。


「ずっと、あなたは弱いと思ってた……でも、ここ数日は驚かされてばかりなのは認めるわ」

 シルヴェインはうなじを掻いた。

「あなた、全部の属性への適性が高いみたいね」

「だといいんだけどな……」

「《オーロラ軍》のカード、持ってる?」

 彼女が遮った。

「見せて!」

「持ってるけど……なんでそんなに張り切ってるんだ?」


 アートは腰の帯からカードを取り出した。シルヴェインはそれを受け取り、声に出して読み上げた。

「《奔流》9? すごい! とんでもないマナね!」

 黄色い目を見開いて、彼女は言った。

「適性も見てみましょう……炎、《ルーン》三つ。大地、《ルーン》三つ。水、《ルーン》二つ。そして風、《ルーン》一つ」

「わかった! もう十分だろ……」


 アートが遮った。彼女がそれ以上何か言う前に、ほとんど乱暴なほどそっけない動きで、カードを取り返した。


「なんでそんなに神経質になってるの? 誇りに思うべきよ……全属性に適性があって、マナの蓄えもほとんど最大値。すごいことじゃない! やっぱりお父さんの息子ね……」

 アートはうつむき、暗い表情でカードをしまった。

「さっさと持ち場に戻るよ……」


 ダイアナは、友人が離れていくのを待ちながら、《シールダー》の友人のそばにもう少しとどまった。

「今のは何?」

 突然の態度が理解できず、シルヴェインが尋ねた。

「あいつ、自分の能力値を見せるのが好きじゃないの。いつも同じ。小さい頃から、お父さんの影から抜け出そうとしてるのよ。わかるでしょ? 自分の道を見つけようとしてる。私も、その気持ちはなんとなくわかるんだ」

「ふうん! 気づかなかった。まあ、私は親なしで育ったから」

 彼女は、ばつが悪そうに笑った。

「ごめんねって伝えておいてくれる?」

「気にしないで、ね! あいつ、家族のことでいろいろあって、ちょっといつもと違うだけだから。心配しないで!」

「そう……」

 シルヴェインは抑えたため息をつき、空へ視線を逸らした。

「そろそろ行かなきゃ。また明日!」

「またね!」


 シルヴェインはゆっくりとした足取りで去っていった。ダイアナは、アートの隣の持ち場に戻った。


◇


 二人が持ち場を離れ、家へ向かって歩き出したとき、夜はすでに王国を包み込んでいた。空は深い青に染まり、重い雲が月の光を覆い隠していた。


 長く立ちっぱなしだったせいで体のあちこちが少し痛み、退屈の重みが、濡れた毛布のように背中にまとわりついていた。


「とにかくお風呂に入って、何か食べたい……」

 ダイアナは両腕を高く伸ばしながら、つぶやいた。

「できれば、逆の順番で」

「食べることばっかりだな、ふうん? よかったら、先に市場に寄ってもいい。夕飯に、ちょっと考えがあるんだ。リサも気に入ると思う」

「また、あなたの『ルミニスのスープ』じゃなければね……」

「本気か!? あれには個性があったんだぞ」

 彼は憤慨したふりをして言い返した。


 南のにぎやかな通りを抜けながら、二人は一緒に笑った。やがて《商業区》に着き、いつも行く市場へ向かった。


 市場は夜の薄闇に沈み、人がまばらになり始めていた。すり切れた帆布の屋台がきしみ、最後の商人たちが黙って品物を包んでいた。疲れた視線を交わしながら。


 《王国衛兵》の兵士たちが二人一組で巡回し、ランプに火を灯して、湿った石の街角に金色の輪を落としていた。遠くでは、酒場からリュートの音と笑い声が響いていた。そこでは、夜が物語と歌を約束していた。その音が、熟した果物や革や煙の、しつこく残る土くさい香りと混じり合っていた。日が暮れても続く市場ならではの匂いだった。


 ダイアナはいくつかの果物を手に取り、見せた。


「見て! ここ、新鮮なルミニスの実があるよ!」

 彼女は匂いをかいだ。

「おいしそう! デザートに買っていかない? でも、スープにするのはなしでね……」

 アートは微笑んだ。リンゴをいくつか、かごに入れていた。

「いい考えだ。それと、お前の好きな肉も買っていくのはどうだ? 今日は特別なものがいい。それに、リサもきっと腹ぺこだろうし」

 《アーチャー》は顔を赤らめながら、嬉しそうに頷いた。


 二人は市場を進んだ。今日一日のことをさらに話しながら、いくつかの品物を手に取っていった。


「少なくとも、ゲームをする時間はあるしな。マークがいかさまをしようとしたの、覚えてるか? 隠したカード、誰にも見えてないと思ってるんだ」

 アートが言った。


 ダイアナは大笑いした。


「うん、あの人はもう手遅れ。いかさま師でも、いい友達だけどね」


 若い魔法使いは気が緩んでいたが、友人のほうは、ここ最近の出来事のせいで、まだ緊張を解けずにいた。前回の任務での待ち伏せ。見知らぬトンネル。リサの出現。そして、すべてを打ち明けてはくれない友人の態度。それでも、何も言わないことにした。二人で分かち合っているこの時間が、嬉しかったのだ。


 離れたところ、閉まった二軒の店の間にある狭い路地の影に包まれて、フードの男が二人を見張っていた。痩せて背の曲がったその体は、ほとんど動かなかった。ただ目だけが――黄色みを帯びた二つの鮮やかな光点が――フードの下で輝き、周囲の光を映しながら、獲物をうかがう捕食者の目のように、若者たちに据えられていた。


 最後の食料を抱えて、細い路地を家へ向かって歩いていると、ダイアナはうなじを寒気が這い上がるのを感じた。その嫌な感覚が、彼女を不安にさせた。


 彼女は道すがら、何度かさりげなく肩越しに振り返った。


「大丈夫か?」

 それに気づいたアートが尋ねた。

「誰かを見た気がしたの……でも、たぶん気のせい」

 彼は頷いたが、家を囲む低い鉄の門にたどり着くまで、感覚を研ぎ澄ませていた。


 扉を開けると、乾いた葉と薬草の油の心地よい香りが二人を迎えた。居間は見違えるほど片付いていた。クッションは整えられ、本は書棚にきちんと並べられ、小さなランプがいくつも灯されて、温かな雰囲気を作っていた。居間の中央には、新鮮な果物のかごが床の上に丁寧に置かれ、灯された三本の蝋燭に囲まれていた。


 小さなエルフはかごの近くに座っていた。足を組み、輝く目で二人を見つめている。耳の後ろの髪には青い花が挿され、膝の上には開いた本が載っていた。


「おかえり……なさい」


 彼女ははにかんだ笑みを浮かべて言った。その声はまだゆっくりと穏やかなリズムだったが、今では文がずっと完全になっていた。


「わたし……全部、きれいにした。二人を待ってたの」


 アートとダイアナはすぐに微笑んだ。ただし、理由はそれぞれ違った。優しい心づかいを嬉しく思う一方で、物の並べ方に気づいて、こらえた笑いを隠しきれなかったのだ。


「リサ……どうして、かごとランプを床に置いたの?」

 ダイアナが尋ねた。

「これは……わたしの民の習わし。やって来た人に……光と食べ物を、差し出すの」

「素敵だな」

 アートは吹き出すのを必死にこらえていた。

「ただ、ここではそういうのに慣れてないだけなんだ」


 リサは首をかしげた。二人の反応に、見るからに戸惑っていた。彼女はかごを見て、次にランプを見て、それからもう一度二人を見つめた。


「……間違い、だった?」

「ううん……」

 二人は同時に言った。

「すごく嬉しい!」

 ダイアナが付け加えた。


 和やかな空気の中、疲れが心地よさへと変わり始め、三人は一緒に夕食を作るために台所へ行った。リサは――ダイアナの見守りのもとで――丁寧に材料を切るのを手伝い、アートは熟練の料理人のような顔で鍋をかき混ぜていた。どう見ても、そう思っているのは本人だけだったが。


「それで……どこから来たのか、覚えてるか?」

 アートが沈黙を破った。

「うん、でも……どうやってここに来たのかは……覚えてない。全部が……」

 リサは片手を頭に当てた。

「やめなさい、アート! 今はそういう時じゃないでしょ!」

 ダイアナが叱った。

「お姫様、今は無理しなくていいのよ。ゆっくりでいいから、きっと思い出せる。私が保証する!」

 彼女は小さな子の頭に手を置きながら、そう付け加えた。


 アートは目を閉じ、顔を上げてため息をついた。


「悪かった!……じゃあ、話を変えるけど、どうやってそんなに話すのがうまくなったんだ?」

「たくさん、読んだの!」


 ダイアナは友人を見つめた。二人の頭は疑問でいっぱいだった。このエルフは、どうしてこんなに簡単に人間の言葉を覚えられたのだろう?


 二人の心配をよそに時は過ぎ、料理の匂いが部屋を満たした。そのとき、玄関の扉を叩く、乾いた力強い音が響いた。


 ドン! ドン! ドン!


 全員が一瞬動きを止めた。その音は、静かな湖に投げ込まれた石のように、穏やかな空気を破った。アートはダイアナと視線を交わした。


「あなたのお父さん?」

 彼女が尋ねた。

「いや! 今日は水曜日だ。父さんは水曜日には絶対に来ない」

 彼は小声で答えた。

「お前……誰かにつけられてる気がするって言ったの、冗談だったよな?」

「知らないわよ! ただの気のせいだと思ったんだもん」

「リサを隠してくれ。俺が出る」

 ダイアナは弓を手に取り、物音一つ立てないように、猫のような足取りで歩いた。


 リサは――まだ台所に立ったまま――紫色の目を見開いて、扉のほうを見ていた。ありがたい訪問者ではないことは、彼女にも理解できた。ランプの光が揺らめき、壁に不安定な影を落としていた。


 ドン! ドン! ドン!


 アートは深く息を吸った。体の横で手を握りしめ、肌の下で魔力が脈打つのを感じた。扉を叩く音は、前触れのように、まだ頭の中で響いていた。扉の向こうに誰がいるのかはわからなかった。だが、何が来ようとも、覚悟はできていた。

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