最適化された恋人
マッチング結果が届いたのは、二十八歳の誕生日だった。
【最適一致率 12%】
画面の中央に、無機質な数字。
周囲の平均は、70%以上。
友人は笑っていた。
「え、低すぎない?」
彼女は肩をすくめた。
「最適化されにくい体質なんだよ」
冗談のように言ったが、通知は消えない。
⸻
この社会では、恋愛は最適化される。
性格、遺伝子、生活リズム、収入、ストレス耐性。
すべて解析され、
“最も効率的なパートナー”が提示される。
離婚率は激減した。
家庭内トラブルも減った。
子どもの幸福度も上がった。
合理的な制度だ。
⸻
彼女の一致率は、いつも低い。
理由は単純だった。
【自己決定欲求:高】
【適応柔軟性:低】
【予測不能行動傾向:中】
AIは結論づける。
――安定性に欠ける。
⸻
最適一致率78%の男性と、試験的交際をした。
優しい。
誠実。
条件も悪くない。
だが、三ヶ月で終了した。
理由は、記録されている。
【将来設計における方向性の微差】
彼は言った。
「効率的じゃないよ」
彼女はうなずいた。
「そうだね」
否定はしなかった。
⸻
ある夜、システムから通知が来る。
【一致率 0%】
初めて見る表示だった。
該当者なし。
アルゴリズムが、諦めた。
⸻
彼女は、少し笑った。
落ち込まなかった。
むしろ、静かに息が楽になる。
“選ばれない”のではない。
“分類できない”のだ。
⸻
カフェで、偶然隣に座った男性と話す。
システム上は接点ゼロ。
趣味も違う。
収入も違う。
価値観も微妙にずれている。
だが、会話が続く。
予測不能な方向へ。
笑う。
AIは沈黙している。
⸻
後日、通知が届く。
【一致率 48%】
高くもない。
低くもない。
推奨とも、非推奨とも表示されない。
彼女は数字を眺める。
48%。
良いとも悪いとも言えない。
端末を閉じる。
結局、付き合ってみないとわからない。
それは昔から、そうだった。
彼女はメッセージを打つ。
「今度、ゆっくり話しませんか」
送信。
画面に残るのは、48%という数字だけ。
けれど、
次に会うかどうかを決めたのは、
その数字ではなかった。




