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測定不能  作者: Wataru


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2/25

廃棄部署

辞令は、静かだった。


 【人材再配置室への異動を命ずる】


 理由は書かれていない。


 書く必要もないのだろう。


 彼女はメールを閉じた。


 驚きはなかった。


 評価は下がり続けていたし、

 成果と呼べる数字もなかった。


 妥当だと思った。


⸻


 再配置室は、本社の一番奥にあった。


 机と椅子と、最低限の端末。


 業務は「待機」。


 十人ほどが座っている。


 年齢も部署歴もばらばら。


 共通点はひとつ。


 “使い道が見つからなかった”。


 彼女は席に座る。


 静かだ。


 怒りも諦めもない。


 ただ、空気が薄い。


⸻


 数日後、彼女は気づく。


 この部屋は無能の集まりではない。


 ただ、配置を間違えられた人間の集まりだ。


 窓際の初老の男性は、営業歴二十年。


 契約トラブルの履歴をほぼ暗記している。


 若い女性は、クレーム対応の元担当。


 相手の声の震えで、嘘と本音を聞き分ける。


 奥の男性は、ログ解析に異常に強い。


 異常値の“匂い”を嗅ぎ取る。


 だが、それらは今の評価基準に入っていない。


 成果は売上と速度だ。


 予兆と緩衝は、点数にならない。


⸻


 ある日、営業部で大きなトラブルが起きた。


 契約条件の読み違い。


 法務との連携不足。


 炎上寸前。


 再配置室の中で、初老の男性が呟く。


「条件条項、去年と変わってるな」


 ログ解析の男性が画面を覗き込む。


「三日前からエラー増えてます」


 クレーム担当の女性が言う。


「先方、もう怒ってる」


 彼女は頭の中で計算する。


 この損失額。


 この混乱。


 この時間。


 ――防げた。


 誰かが、気づいていれば。


⸻


 トラブルは、なんとか収束した。


 功績は管理職の手柄になる。


 再配置室は、また静かになる。


 彼女は考える。


 会社が悪いわけではない。


 評価軸が違うだけだ。


 効率重視の組織に、

 予兆読みの人間は重い。


 だが、必要ないわけではない。


 “余裕がない”だけだ。


⸻


 彼女はノートを開く。


 名前を書き出す。


 特技を書き出す。


 過去の事例を書く。


 損失額を書く。


 外部企業のニュースを並べる。


 同じ失敗が、いくつも載っている。


 彼女は結論を出す。


 市場はある。


 ただ、この会社には余裕がない。


⸻


 退職届を出した。


「理由は?」


「個人的な事情です」


 本当は単純だった。


 資源が眠っているのを、

 放置するのが非効率だから。


⸻


 三ヶ月後。


 小さな事務所。


 看板は地味だ。


 【予兆設計室】


 最初の依頼は、社員三十人の印刷会社。


「最近、離職が続いていて」


 彼女は廃棄部署の元メンバーに連絡する。


 初老の男性は契約書を読む。


 ログ解析の男性はデータを見る。


 クレーム担当の女性は、社員の声を聞く。


 派手なプレゼンはない。


 ただ、指摘する。


「ここが崩れます」


 三ヶ月後、崩れなかった。


 社長は言う。


「助かりました」


⸻


 廃棄部署と呼ばれていた人間たちは、

 いま、それぞれの机に向かっている。


 派手な成果はない。

 ニュースにもならない。


 けれど、依頼は増えている。


 「助かりました」と言われる回数が、少しずつ増えている。


 彼女はカレンダーを見る。


 来月の予定は、ほぼ埋まっていた。


 余裕はない。

 安定も、まだない。


 それでも。


 机の上の案件に手を伸ばす。


 廃棄されたはずの人間たちは、

 いま、動いている。


 彼女は電気を消さない。


 まだ、やることがある。


 それが、嬉しかった。



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