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測定不能  作者: Wataru
24/25

過去の恋の記憶を削除して最適な相手と結婚したのに、なぜか違和感が消えません

 こんなに苦しいなら、

 最初から好きにならなければよかった。


 何もしていないのに、

 勝手に思い出して、

 勝手に苦しくなる。


 もう、嫌だ。


 「……消せるんだ」


 画面に表示された文字を、見つめる。


「過去の恋愛記憶を削除しますか?」


 画面に表示された確認文を、しばらく見つめる。



 対象:1件

 感情残存率:78%

 推奨:削除



 「……」


 これを消せば、楽になるらしい。


 未練も、比較も、後悔も。


 全部、なくなる。


 「削除しますか?」


 少しだけ迷って。


 「はい」を押した。


 画面が一瞬、白くなる。


 それで終わりだった。


 「完了しました」


 少しだけ、安心した。


 思い出そうとしてみる。


 ──誰を好きだったんだっけ。


 浮かばない。


 名前も、顔も、何も。


 「……」


 少しだけ、胸が軽くなった気がした。


 それから。


 「最適なパートナーを提案します」


 表示された名前を見て、頷く。


 優しい。

 安定している。

 将来性もある。


 「この人物に対する好意を最適化しますか?」


 迷いはなかった。


 「はい」


 それからは、自然だった。


 会って、話して、笑って。


 ちゃんと、好きになった。


 無理じゃない。


 頑張ってる感じもしない。


 「一緒にいると落ち着くね」


 「うん」


 そう思う。


 本当に。


 告白も、結婚も。


 全部、スムーズだった。


 「これからも一緒にいよう」


 「うん」


 迷わなかった。


 ちゃんと好きで、ちゃんと安心できる。


 だから。


 これが、正しいと思った。


 「ただいま」


 「おかえり」


 穏やかな日常。


 食卓、会話、同じ時間。


 問題はない。


 どこにも。


 ──なのに。


 「……」


 ふとした瞬間に、手が止まる。


 理由はない。


 ただ、少しだけ。


 何かが、引っかかる。


 「どうした?」


 「ううん、なんでもない」


 笑う。


 ちゃんと笑えている。


 夜。


 ベッドに入る。


 隣には、同じ人。


 安心できる。


 好きだ。


 確かに、そう思う。


 それなのに。


 「……」


 胸の奥に、空白がある。


 何もないはずなのに。


 埋まらない場所がある。


 思い出そうとしても、何も出てこない。


 削除したはずだから。


 「……なんでだろ」


 小さく呟く。


 足りない。


 何が、とは言えない。


 でも、確かに。


 “何かが足りない”


 次の日。


 朝食を作りながら、思う。


 この人を選んでよかった。


 ちゃんと、そう思える。


 間違っていない。


 正しい選択をして、


 正しい人生を歩いている。


 それなのに。


 「……これで、いいんだよね」


 誰にも聞かない問いを、心の中で繰り返す。


 答えは出ない。


 出るはずもない。


 だって。


 間違いなんて、どこにもないから。


 テーブルの上に、スマホがある。


 ふと、画面を開く。


 何もない。


 履歴も、記録も、全部整理されている。


 きれいに。


 完璧に。


 「……」


 指が、少しだけ止まる。


 何かを探しているみたいに。


 でも、見つからない。


 最初から、存在しなかったみたいに。


 それでも。


 胸の奥だけが、覚えている。


 「……」


 理由のない、違和感。


 名前もない、感情。


 消したはずのものが、


 そこに“ない形”で残っている。


 ──最適な選択をして、


 最適な相手と結ばれて、


 最適な人生を歩いている。



 それなのに。



 ほんの少しだけ。



 “間違っている気がした”

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