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測定不能  作者: Wataru
21/25

成功率が見える世界で、100%以外選ばなかった結果、何も起きない人生になった

 成功率、82%。


 その数字を見て、俺は手を止めた。


 少し考えて、

 やめた。


 82%は高い。


 でも、確実じゃない。


 残りの18%に入る可能性があるなら、

 やる意味はない。


 この世界では、

 あらゆる行動に成功率が表示される。


 仕事。

 恋愛。

 選択。


 視界の端に、

 淡く数字が浮かぶ。


 それは、

 外れることがない。


 だから俺は、

 それに従ってきた。


 成功率が高いものだけを選び、

 低いものは切り捨てる。


 そうすれば、

 間違わない。


 そうすれば、

 失敗しない。


 それが、

 正しい生き方だと思っていた。



 結果。


 何も起きていない。


 仕事は安定している。


 収入もある。


 問題はない。


 でも。


(……何もないな)


 ふと、思う。


 帰り道。


 人が笑っている。


 誰かと話している。


 その中に、

 自分はいない。


 必要がなかった。


 関わる理由がない。


 成功率が、

 低いから。



 ある日。


 同僚が言った。


「飲みに行かない?」


 視界に数字が浮かぶ。


 成功率、47%。


 低い。


「やめとく」


 即答する。


「そっか」


 それで終わる。


 問題はない。



 別の日。


 駅のホーム。


 前にいた女が、

 財布を落とした。


 成功率、63%。


 声をかけるかどうか。


 少しだけ迷って、

 やめた。


 確実じゃない。


 誰かが拾うだろう。


 そのまま、

 電車に乗る。


 問題はない。


 ある日。


 会社の廊下で、

 彼女とすれ違う。


 何度か目が合ったことがある。


 少しだけ、

 気になっていた。


 視界に数字。


 成功率、12%。


 低い。



 何も言わない。



 そのまま、

 通り過ぎる。



 それでいい。



 それが正しい。



 失敗しないためには、

 何もしないのが一番だ。


 そうやって。


 何年も過ぎた。


 ある日。


 画面に、

 見慣れない表示が出た。


 成功率、0%。


 珍しいこともある。


 項目を見る。


 「この人と、一緒に生きる」


 思わず、顔を上げる。


 向こうに、

 あの女がいた。


 また、目が合う。


 逸らさない。


 数秒。


 心臓が、少しだけ速くなる。


(……0%)


 あり得ない。


 このシステムに、

 間違いはない。


 0%は、

 不可能という意味だ。


 やっても、無駄。


 そういうことだ。


 女が、少しだけ笑った。


 何も言わない。


 ただ、

 待っているように見えた。


 理由はない。


 成功率は0%。


 やる価値はない。


 なのに。


(……なんで)


 足が、動かない。


 初めて。


 数字じゃない何かが、

 引っかかった。


 でも。


(……無理だろ)


 0%だ。


 失敗しかしない。


 意味がない。


 何も得られない。


 俺は。


 何も言わずに、

 目を逸らした。


 そのまま、

 歩き出す。


 後ろで、

 足音がしなかった。


 それだけで、

 十分だった。



 家に帰る。


 静かだ。


 いつも通り。


 何も変わらない。


 何も起きない。


 椅子に座る。


 ふと、

 思う。


(……これでよかったのか)


 考える。


 でも。


 すぐに答えが出る。


(……正解だ)


 失敗していない。


 傷ついていない。


 何も失っていない。


 それが、

 正しい。


 しばらくして。


 通知が来る。


「人生最適化レポート」


 開く。


「失敗回数:0」


 当然だ。


「重大リスク回避:100%」


 当然だ。


 スクロールする。


 最後の一文で、

 指が止まった。


「挑戦回数:0」


 静かな部屋で。


 しばらく、

 動けなかった。


 何も問題はない。


 何も間違っていない。


 それでも。


 胸の奥に、

 小さな違和感が残る。


 でも。


(……まあ、いいか)


 そのまま、

 画面を閉じた。


 何も起きない夜が、


 またひとつ、

 積み重なった。


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