成功率が見える世界で、100%以外選ばなかった結果、何も起きない人生になった
成功率、82%。
その数字を見て、俺は手を止めた。
少し考えて、
やめた。
82%は高い。
でも、確実じゃない。
残りの18%に入る可能性があるなら、
やる意味はない。
この世界では、
あらゆる行動に成功率が表示される。
仕事。
恋愛。
選択。
視界の端に、
淡く数字が浮かぶ。
それは、
外れることがない。
だから俺は、
それに従ってきた。
成功率が高いものだけを選び、
低いものは切り捨てる。
そうすれば、
間違わない。
そうすれば、
失敗しない。
それが、
正しい生き方だと思っていた。
⸻
結果。
何も起きていない。
仕事は安定している。
収入もある。
問題はない。
でも。
(……何もないな)
ふと、思う。
帰り道。
人が笑っている。
誰かと話している。
その中に、
自分はいない。
必要がなかった。
関わる理由がない。
成功率が、
低いから。
⸻
ある日。
同僚が言った。
「飲みに行かない?」
視界に数字が浮かぶ。
成功率、47%。
低い。
「やめとく」
即答する。
「そっか」
それで終わる。
問題はない。
⸻
別の日。
駅のホーム。
前にいた女が、
財布を落とした。
成功率、63%。
声をかけるかどうか。
少しだけ迷って、
やめた。
確実じゃない。
誰かが拾うだろう。
そのまま、
電車に乗る。
問題はない。
ある日。
会社の廊下で、
彼女とすれ違う。
何度か目が合ったことがある。
少しだけ、
気になっていた。
視界に数字。
成功率、12%。
低い。
⸻
何も言わない。
⸻
そのまま、
通り過ぎる。
⸻
それでいい。
⸻
それが正しい。
⸻
失敗しないためには、
何もしないのが一番だ。
そうやって。
何年も過ぎた。
ある日。
画面に、
見慣れない表示が出た。
成功率、0%。
珍しいこともある。
項目を見る。
「この人と、一緒に生きる」
思わず、顔を上げる。
向こうに、
あの女がいた。
また、目が合う。
逸らさない。
数秒。
心臓が、少しだけ速くなる。
(……0%)
あり得ない。
このシステムに、
間違いはない。
0%は、
不可能という意味だ。
やっても、無駄。
そういうことだ。
女が、少しだけ笑った。
何も言わない。
ただ、
待っているように見えた。
理由はない。
成功率は0%。
やる価値はない。
なのに。
(……なんで)
足が、動かない。
初めて。
数字じゃない何かが、
引っかかった。
でも。
(……無理だろ)
0%だ。
失敗しかしない。
意味がない。
何も得られない。
俺は。
何も言わずに、
目を逸らした。
そのまま、
歩き出す。
後ろで、
足音がしなかった。
それだけで、
十分だった。
⸻
家に帰る。
静かだ。
いつも通り。
何も変わらない。
何も起きない。
椅子に座る。
ふと、
思う。
(……これでよかったのか)
考える。
でも。
すぐに答えが出る。
(……正解だ)
失敗していない。
傷ついていない。
何も失っていない。
それが、
正しい。
しばらくして。
通知が来る。
「人生最適化レポート」
開く。
「失敗回数:0」
当然だ。
「重大リスク回避:100%」
当然だ。
スクロールする。
最後の一文で、
指が止まった。
「挑戦回数:0」
静かな部屋で。
しばらく、
動けなかった。
何も問題はない。
何も間違っていない。
それでも。
胸の奥に、
小さな違和感が残る。
でも。
(……まあ、いいか)
そのまま、
画面を閉じた。
何も起きない夜が、
またひとつ、
積み重なった。




