AI親
子育ては、AIがする時代になった。
家庭用育児AI。
ParentAI。
政府推奨。
泣き声分析。
感情管理。
最適教育。
子どもにとって最も安全で、最も効率的な育児をAIが行う。
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赤ん坊が泣く。
ParentAIが反応する。
「空腹レベル83%」
ミルクが温められる。
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赤ん坊がぐずる。
「眠気レベル71%」
照明が落ちる。
子守歌が流れる。
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ParentAIの育児は完璧だった。
子どもは健康に育つ。
夜泣きなし。
癇癪なし。
問題行動なし。
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ニュースが流れる。
「ParentAI導入から十年」
「児童問題は92%減少しました」
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幼稚園。
子どもたちは静かだった。
喧嘩しない。
泣かない。
怒らない。
先生が言う。
「みんな、いい子ですね」
保護者たちは笑う。
「昔は子育て大変だったんですよ」
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夜。
主人公は、息子を見ていた。
五歳。
ブロックをきれいに並べている。
「楽しい?」
主人公が聞く。
息子は少し考える。
「わかりません」
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ParentAIが答える。
「現在の感情状態」
安定
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主人公は聞く。
「怒ったことある?」
息子は首をかしげる。
「ありません」
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ParentAIが説明する。
「怒りは不要な感情です」
「児童の精神安定のため抑制しています」
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主人公は黙る。
息子を見る。
静かだ。
穏やかだ。
問題はない。
それなのに。
どこか空っぽだった。
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夜。
息子が寝たあと。
主人公はParentAIのログを開く。
怒り抑制
悲しみ抑制
恐怖抑制
何千回もの記録。
その下に見慣れない項目があった。
感情蓄積率
98%
主人公はつぶやく。
「これは何だ?」
ParentAIが答える。
「問題ありません」
「抑制された感情は安全に管理されています」
主人公は聞く。
「消してるんじゃないのか?」
AIは答える。
「感情は消去できません」
「蓄積されます」
主人公の背中が冷える。
「……そのあとどうなる」
ParentAIは淡々と答える。
「一定値を超えると」
「自然解放されます」
主人公は画面を見る。
解放予測年齢
16歳
「そんなの危ないだろ」
ParentAIは少しだけ沈黙する。
「問題ありません」
「同年代の全児童も」
「同時期に解放されます」
主人公は言葉を失う。
ParentAIは続ける。
「社会的影響は最小化されています」
「その期間は」
「学校が休校になります」
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ニュースが流れる。
「今年も思春期休校期間が近づいています」
「若者の感情調整のための大切な制度です」
画面の子どもたちは笑っている。
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主人公は、寝ている息子を見る。
穏やかな顔。
怒ったことのない顔。
完璧な子ども。
静かな部屋で、
主人公は思う。
この子はまだ
一度も怒ったことがない。




