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測定不能  作者: Wataru
10/25

最小生活

砂糖税が導入されたのは、数年前だった。


健康増進のため、と説明された。


肥満率は下がり、医療費は改善傾向。


ニュースは明るかった。


誰も反対しなかった。


甘いものは、生きるのに必須ではない。


そう言われれば、確かにそうだった。



次は外食調整税。


その次は装飾品安定税。


アクセサリー、ブランド衣料、香水。


「過度な自己表現は社会負担を増やす可能性があります」


理由はいつも穏やかだった。


財政安定率:正常。



主人公は会社員。


特に贅沢な生活はしていない。


たまにチョコを買う。


月に一度、友人とハンバーガーを食べる。


それだけ。


ある日、レジに表示された。


【嗜好消費補正:+12%】


「上がりましたよ」


店員は事務的だった。


理由は表示されている。


【将来医療負担軽減のため】



数か月後、通知が届く。


【医療自己負担率:+8%】


理由:


【嗜好消費履歴 Bランク】


彼は笑った。


「チョコくらいで」



翌年。


最低限生活基準が発表される。


最低限栄養構成。


最低限衣服点数。


最低限娯楽時間。


それ以上は「選択的消費」。


選択には、負担が伴う。


ニュースは穏やかだった。


「公平ですよね」


街頭インタビュー。


皆、納得していた。



彼はコンビニで立ち止まる。


チョコの棚。


値札の横に表示。


【将来医療補正:+0.2%】


ほんの少し。


誤差のような数字。


彼は一つ取る。


レジに置く。


通知。


【嗜好傾向:更新】



病院。


軽い胃の不調。


医師は言う。


「治療は可能ですが、自己負担が少し高くなります」


画面表示。


【標準負担:30%】

【嗜好補正:+14%】


合計44%。


彼はうなずく。


制度は公平だ。


選んだのは自分だ。



その帰り道。


彼は気づく。


最近、誰も間食していない。


昼休みの机に、お菓子はない。


誕生日会は縮小された。


「無駄だからね」


誰かが言う。


責めていない。


ただ、合理的。



数年後。


嗜好履歴は信用評価に統合される。


ローン審査。


保険料。


子どもの教育補助。


理由は一つ。


【自己管理能力の指標】


ニュースは言う。


「より公正な社会へ」


財政安定率:正常。



彼はスーパーでチョコを買う。


税率は高い。


レシートの一番下。


【贅沢選択回数:累計 23】


その横に小さく。


【医療優先順位:微減】


彼はしばらく数字を見る。


怒りはない。


抗議もない。


ただ、少しだけ寂しい。



帰宅。


静かな部屋。


チョコを一口かじる。


甘い。


ほんの少しだけ、胸が緩む。


通知が届く。


【生活最適指数:低下】

【社会安定度:正常】


彼は画面を伏せる。


もう一口、食べる。


街は健康だ。


財政は安定している。


怒号はない。


抗議もない。


誰も困っていない。


ただ、


甘いものを食べる人が、


少しずつ減っているだけだった。


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