存在ランキング
朝、ログインすると表示された。
白い画面。
黒い文字。
【存在ランキング:8,412,229位】
彼は少しだけ目を細めた。
「まあ、そんなもんか」
隣の席の同僚が言う。
「俺、500万台」
少し誇らしそうだった。
ランキングは毎月更新される。
社会貢献度。
経済価値。
代替可能性。
AIがすべて計算する。
公平な制度だと、皆が言う。
⸻
彼の仕事は清掃だった。
オフィスビルの廊下を拭き、
ゴミを回収し、
トイレを整える。
人が働く場所を、整える仕事。
ランキングが低いのも、理解はできた。
⸻
ある日。
駅が止まった。
最初は小さな遅れだった。
でも数日で、駅のトイレが閉鎖された。
ゴミが溜まり、
臭いが広がる。
駅は一部閉鎖された。
⸻
同じ頃、病院でも問題が起きた。
廊下の清掃が追いつかない。
感染対策が保てない。
手術室の一部が停止する。
ニュースが流れる。
「清掃員不足が社会に影響」
専門家が困った顔で言う。
「想定外でした」
⸻
AIは再計算を行った。
社会停止リスク。
業務重要度。
必要人数。
数日後、発表が出る。
【清掃業務:社会重要度 高】
⸻
彼はそのニュースを見た。
同僚が笑う。
「俺たち、重要らしいぞ」
「へえ」
彼はうなずく。
⸻
翌月。
ランキングが更新された。
彼はログインする。
表示を見る。
【存在ランキング:8,412,229位】
変わっていない。
⸻
同僚が言う。
「上がらないのか」
彼は少し考える。
それから言った。
「仕事は重要でも」
「人は替えがきくんだろ」
同僚は少し黙った。
⸻
彼はモップを持つ。
床を拭く。
ゴミを回収する。
駅は少しずつ動き始める。
病院も再開する。
社会は、また回り始める。
⸻
彼はスマホを見る。
表示が出ている。
【社会安定度:正常】
その下に、小さく表示された。
【清掃員:代替可能】
⸻
彼は画面を閉じた。
モップを持ち直す。
床は、まだ少し汚れていた。




