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測定不能  作者: Wataru
9/25

最適寿命

朝。


郵便受けに、白い封筒が入っていた。


宛名は、正確に印字されている。


開封。


一枚の通知。



【平均寿命最適化プログラム】


あなたは本日、

最適寿命域に到達しました。


現在の社会最適寿命:79.9歳


あなたの年齢:79.9歳


社会貢献率:標準

医療優先度:段階的調整対象



彼は、眼鏡を外した。


「ぴったり、か」


悪い気はしなかった。


むしろ、誇らしい気さえした。


平均。


標準。


社会のバランスに貢献している。



病院。


医師は穏やかに言う。


「積極治療は、あまり推奨されません」


「今後は緩和中心になります」


彼はうなずく。


怒りはない。


制度は公平だ。


誰も特別扱いしない。


それが平等だ。



待合室のテレビ。


テロップ。


【社会寿命バランス:正常】


インタビューが流れる。


「無理に長生きしないのも社会貢献ですよね」


若い母親が笑う。


「将来の世代のために」


彼は小さく笑う。


自分も、そう思っていた。



だが帰り道。


彼はふと立ち止まる。


足は、まだしっかりしている。


息も切れない。


視界も、はっきりしている。


「もう十分」


その言葉が、


誰のものなのか分からなくなる。



数日後。


検診結果。


【延命非推奨】


医師の画面に表示される。


理由欄:


【統計的充足】


彼は医師に聞く。


「もし私が80.2歳なら?」


医師は微笑む。


「現在の最適値は79.9歳です」


「来年は?」


医師は答えない。



夜。


彼はテレビを消す。


静かだ。


彼は、まだ生きたいと思っていることに気づく。


小さな欲望。


誰にも言っていない。


誰にも必要とされていないかもしれない。


でも。


自分の中に、ある。



翌週。


病院の若い看護師が、


画面を見つめている。


【延命非推奨】


チェック欄が点滅している。


制度通りなら、入れる。


彼は言う。


「君は、平均より長く生きろよ」


看護師は笑う。


「まだ若いので」


彼は首を振る。


「若いからじゃない」


「自分で決めろ」



看護師の指が、止まる。


チェックを、入れない。


画面表示。


【誤差:0.01%】


警告は出ない。


社会寿命バランス:正常。



数か月後。


平均寿命は79.7歳に下がる。


ニュースが流れる。


「財政安定のための微調整です」


彼の名前は統計処理済み。


【最適化完了】


だが、


その年の延命希望申請が、


前年比0.02%増える。



画面表示。


【社会寿命バランス:正常】


変わらない。


数字は揺れない。


だが、


平均の中に、


わずかな抵抗が混じった。



彼は静かに目を閉じる。


自分が平均だったことを、


少しだけ誇らしく思いながら。


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