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君が忘れた世界で  作者: 和泉きよ


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3/20

空白の三時間

 事件当日。

 私が何をしていたのか。


 それを知るため、ツキシロと一緒に街を歩いた。


「ここ」


 ツキシロが指差した。


 駅から少し離れた商店街。

 私は立ち止まった。


「……知ってる」


「思い出した?」


「ううん」


 私は首を振った。


「でも、なんとなく」


 商店街を歩く。


 パン屋。

 薬局。

 小さな喫茶店。

 そして、角を曲がったところにある古い公園。

 私は公園の前で足を止めた。


「ここ……」


 頭の奥が痛む。

 誰かがベンチに座っている。


 キユウ。


 彼が笑っている。


『アン、話がある』


 映像のような記憶。


 次の瞬間。


『もう、やめよう』


 キユウの声。


 そして――


『嫌だ』


 自分の声。


「アン?」


 ツキシロの声で現実に戻る。


「……何でもない」


「思い出した?」


「少しだけ」


「何を?」


「キユウさんと、ここで会った」


 ツキシロの表情が変わった。


「本当に?」


「うん」


「何を話した?」


「分からない」


「アン」


「本当に分からないの」


 私は頭を押さえた。


「ただ……」


「ただ?」


「怖かった気がする」


 ツキシロは黙った。


 そのとき、スマートフォンが鳴った。

 警察からだった。


 新しい防犯カメラの映像が見つかったらしい。

 私たちは警察署へ戻った。

 モニターに映像が流れる。


 午後八時十二分。

 私が公園に入る。


 午後八時二十三分。

 キユウが現れる。

 二人が話している。


 午後八時三十七分。

 キユウが立ち上がる。

 私も立つ。


 そして。


 午後八時三十九分。

 画面の端から、別の人物が近づいてくる。

 黒い服。

 顔は見えない。


「この人は?」


 私が尋ねる。


 警察官は首を振る。


「まだ分かりません」


 その人物が私たちのいる方向を見る。


 次の瞬間。

 画面が乱れた。


「え?」


 映像が途切れる。


 再び映ったときには、私は公園から出ていた。

 キユウはいない。

 黒い人物もいない。


 時計は午後十一時四十分。


「三時間……」


 私は呟いた。


「私の記憶がない三時間」


 警察官が頷く。


「その間に何があったのか、まだ分かっていません」


 私はモニターを見つめる。


 すると。


 画面の中の自分が、一瞬だけこちらを見たような気がした。


 もちろん、そんなはずはない。

 録画映像なのだから。

 私は目をこする。

 その瞬間。

 耳元で、声がした。


『違うよ』


「……え?」


 私は振り返った。


 誰もいない。

 ツキシロが不思議そうにこちらを見る。


「どうした?」


「今……」


「今?」


 私は答えられなかった。

 確かに聞こえた。

 女性の声。

 自分とよく似た声。


 いや

 似ているどころか。


**自分自身の声だった。**


 もう一度、声が聞こえた。


『あなたは殺してない』


 私は息を止めた。


「……誰?」


 ツキシロが立ち上がる。


「アン?」


 私は自分の胸に手を当てた。

 心臓が速く鼓動している。


 そして


 頭の奥から、今まで一度も聞いたことのない名前が浮かんだ。

 それは、なぜか懐かしい名前だった。


**メイ**


『私は、あなた』


 その声が聞こえた。

 私は震える手で自分の胸を押さえた。


 そして初めて


 自分の中に


**自分ではない誰かがいる**


ことを知った。


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