第9話「保護」
再接触は、翌日の夕方だった。
琥珀はコンビニの袋を下げて、いつもの道を歩いていた。
角を曲がったところで、菊乃と心桜が立っている。
昨日と同じ顔。同じ空気。
琥珀の足が止まる。
『……また』
『話は、まだ終わっていない』
菊乃の声は静かだった。
琥珀は袋の紐を握り直し、後ろを見る。
逃げる距離はあった。だが、その前に別の声がした。
「琥珀?」
四十代ほどの女が、自転車を押して近づいてくる。
春だった。
琥珀を育てている、親代わりの人物。
春は二人の見知らぬ女を見て、自然に琥珀の前に出る。
「どちら様ですか」
『話がある。琥珀にだけではない』
「この子に用事があるなら、私を通してください」
拒む声は、丁寧で、硬かった。
心桜が面白そうに口の端を上げる。
『保護者さん、か。面倒になってきたね』
『黙っていろ』
三人と一人の保護者が、住宅街の薄暗い角に立っている。
通行人はほとんどいなかった。
菊乃は、短く切り出した。
『私は菊乃。隣は心桜。
琥珀の姉だ。血の繋がった』
春の表情が、初めて動く。
琥珀は二人と春の顔を交互に見た。
『おばさん、この人たち知ってるの?』
春はすぐには答えなかった。
唇を一度結び、それからゆっくりと息を吐く。
「……知っている、とも言える」
『どういう意味』
「今ここでは、話せません。
琥珀を巻き込む前に、私の話を先に聞いてください」
菊乃は春の目を見た。
逃げも、嘘もしていない目だった。
『場所を移す。人目は避ける』
「分かりました」
琥珀が口を挟む。
『待って。私は——』
「琥珀。
少しだけ、私に任せて」
春の声は静かだったが、琥珀の足を止めるには十分だった。
心桜が肩をすくめる。
『家族会議みたいになってきたね』
『煽るな』
『煽ってない。観察』
四人は、住宅街の角を離れた。
話はまだ平行線のままだ。
だが、扉は一度、開いた。




