第7話「所在」
三女の影は、次女ほど掴みにくくはなかった。
裏の世界を転々とする心桜と違い、普通の生活圏にいる人間は、痕跡が残る。
学校。通学路。コンビニ。帰宅時間。
菊乃は表の情報と、わずかな裏の聞き取りを並行して進めた。
『普通の高校生を探すの、意外と地味だね』
心桜が、公園のベンチで欠伸を混じりに言う。
『地味でいい。見つかればいい』
『名前は琥珀、で合ってるの?』
『母親が付けた名だ。外でも使っている可能性が高い』
実際、名前はすぐにヒットした。
市内の高校に、同名の女子生徒が在籍している。
遠縁の家で暮らしている、という話も、細い筋から拾えた。
問題は、顔と人物の一致だった。
一日目。
学校の門の前で、離れて待つ。
制服の群れが出てくるが、特定には至らない。
二日目。
帰宅ルートを絞る。
同じ交差点を同じ時間に渡る生徒が、数人に限られてきた。
三日目。
心桜が、短く口を開く。
『……あれ』
指差す先に、袋を肩に下げた制服の少女がいた。
桜色でも白でもな。
蒲公英のような、黄色の髪。
目立たない歩き方。
だが、目元だけが、どこか既視感を帯びている。
菊乃は、その横顔を長く見た。
『……あいつだ』
『確信?』
『花の血の気配が、薄いがある。
お前と同じく、抑えられている』
心桜は覆いのない方の眼で、少女の背を追う。
胸の奥で、また説明のつかないものが一度だけ動いた。
『……本当に、妹なんだ』
『ああ』
『で、今から声かけるの?』
『いや。
明日以降、接触する。
今日は、生活圏だけを確定させる』
心桜は肩をすくめた。
『慎重だね、あんた』
『失敗すれば、逃げる。
貴様のときと同じだ』
少女の姿が、住宅街の角に消える。
二人はそれ以上追わず、その場に残った。
西の空が、少しだけ赤く沈んでいく。
糸は、また一本繋がった。




