第56話「遮眼」
二人まとめて潰す軌道が、完成する寸前だった。
心桜が、菊乃の手を振り切って踏み込んでいた。
『もう、見てるだけ無理!』
小太刀が青い花霞を割り、蒼慈の側面へ回る。
覆いに指がかかる。
黒い布が上がり、眼が光った。
『——見ろ』
圧が走る。
魅光でも、美光でもない、瞳の力そのもの。
蒼慈は、しかし、顔を上げなかった。
青いプルメリアの花弁が、宙で幕のように広がり、視線を完全に遮る。
魔眼の通り道が、花で塞がれた。
「調べてある。
その瞳は、目が合わねば発動せん」
『……はあ?』
心桜の声が、初めて詰まる。
花弁の幕が散っても、蒼慈はすでに間合を変えていた。
クナイが心桜の刃を弾き、毒の花が袖を掠める。
『ちっ——事前に、対策まで』
「里に残る者の力くらいは、把握する。
当然だ」
紅華が槍で花霞を払い、琥珀が「左! 低い!」と叫び、心桜が再び刃を合わせる。
三人で囲んでも、蒼慈の動きは崩れない。
花弁で視界を切り、毒で速度を落とし、クナイで急所だけを狙う。
3人の戦い方を、すべて読んでいる。
菊乃は、まだ本格的に領域を広げていない。
足元に緑の花弁が増えていくのを、蒼慈も見逃さない。
「長女。座標を溜めているな。
その間に、残りを潰す」
青い斬撃が、紅華の傷を抉るように走る。
琥珀が身を挺してずらし、心桜が追撃を受ける。
三人の呼吸が、乱れ始める。
『……押されてる』
心桜の額に汗が光る。
魔眼が通じない相手は、久しぶりだった。
紅華の傷が開き、琥珀の先読みも、情報量に追いつききれていない。
蒼慈は、三人を見渡して短く息を吐く。
「揃っても、まだ足りん。
私は、お前たちを止めるためにここにいる」
広間の青い花が、さらに濃くなる。
四人のうち三人は、すでに防戦に回っていた。
——そのとき、菊乃の足元の花弁が、音を立てずに揃った。




