第55話「庇う」
蒼慈の最初の一撃は、紅華へ向かった。
青い花弁がクナイに纏わり、直線で紅華の喉を穿つ。
傷を負った体では、完全にはかわしきれない。
——その前に、琥珀が動いていた。
『ダメ!』
刀を鞘のまま横に出し、軌道を叩きずらす。
未熟な受け方だ。
なのに、致命だけは外れた。
黄色い残像が、一瞬先を示していた。
「……邪魔だ。双子」
蒼慈の声は、冷たい。
師の顔ではない。任務の顔だ。
紅華が槍を拾い、歯を食いしばって立つ。
「先生、私を斬るなら、私だけを見て。
この人たちを巻き込まないで」
「裏切り者に、選択権はない」
青い花霞が広がり、視界が濁る。
毒を孕んだ花弁が、二人の周囲を舞う。
紅華の槍がそれを払い、琥珀が「右!」「低い!」と声を飛ばす。
心桜が割り込もうとして、菊乃に袖を押さえられる。
『まだだ。あいつの読みが、続いてる』
『妹ちゃんたちだけで——』
『今は、見ろ』
紅華は傷を押さえたまま、槍を振るう。
蒼慈のクナイとぶつかり、金属音が広間に散る。
昔教えられた型が、身体に残っている。
なのに、師の方が一枚上手だ。
花の毒が袖を掠め、紅華の動きが半拍遅れる。
「教えは、正しく受け取っていたな。
だが、足りん」
『先生の教え、全部は受け取ってない。
私は、もう兵器じゃない』
琥珀が、紅華の背に密着するように立つ。
刀は拙い。
なのに、先読みだけは途切れない。
『後ろから来る! 花が、三つ』
紅華が指示どおりに身を翻し、槍の石突で花弁を叩き落とす。
二人の呼吸が、強引に重なる。
双子の顔が、同じ方向を向く。
蒼慈は、一歩下がってクナイを持ち直した。
表情は変わらない。
なのに、眼がわずかに細くなる。
「……紅華一人なら、ここで終わっていた。
双子の読みが、邪魔だ」
『邪魔でいい。
この人を、もう一人にしない』
琥珀の声は震えている。
なのに、足は下がらない。
黄色い花弁が、足元に一枚だけ落ちた。
蒼慈の青いプルメリアが、再び濃くなる。
次は、二人まとめて潰す軌道だった。




