第53話「共闘」
紅華は、琥珀の腕の中でゆっくりと息を整えた。
傷は浅い。
なのに、戦う力はもう出てこない。
負けを、体が先に認めていた。
心桜が近づき、菊乃も距離を詰める。
四人の顔が、初めて同じ広間に揃う。
紅華が、掠れた声で言った。
「……お母さんを、助けて」
短く、それだけだった。
三人の間に、一瞬の沈黙が落ちる。
琥珀が、先に口を開く。
『……お母さんは、生きてるんですか』
「生きてる。
でも、普通の生き方じゃない」
菊乃の眼が、細くなる。
『状態を話せ』
「長の侵食で、自我はほとんど残ってない。
命令には逆らえない。
でも——娘にだけは、心が残ってる。
私には、それが分かる」
心桜が、覆いのない方の眼で紅華を見る。
『会えるの? ちゃんと』
「分からない。
でも、放っておけば、本当に何も残らなくなる」
琥珀は紅華の肩を支えたまま、小さく息を吸う。
『……助けたい。
会ったこともないのに、助けたい』
菊乃は、短く頷いた。
初めて、少しだけ口元が緩んだように見えた。
それから、はっきりと言う。
『助けて、ではない。
お前も、一緒に戦うのだ』
紅華の目が、揺れる。
「……一緒に、戦う」
『ああ。残された側も、逃した側も、同じ方向を向く。
母親を、長から取り戻す』
紅華は、短く息を吐いた。
拒絶ではなかった。
心桜が、肩をすくめる。
『はは。可愛い妹ちゃんの頼みじゃ仕方ないか。
それに、ママがわたしに似て美人なのかも確かめたいしね』
受け入れは遅い。
だが、もう拒む理由もなかった。
紅華は槍を拾わず、床に座ったまま、掠れた声で続ける。
「長は、子八根様と呼ばれてる。
里の外から来た。
花の血を使い、侵食を広げようとしてる。
私は器として育てられた。
三人は、逃した失敗——最初はそう聞いてた」
琥珀が、指先を握る。
『失敗、じゃない』
「今は、分かってる。
……少しだけ」
情報は、まだ全部ではない。
母親の侵食の詳細も、長の正体も、血が必要な理由も、これからだ。
それでも、「一緒に戦う」という方向だけは、もう固定され始めていた。




