第52話「一閃」
残像が、一本の線に収束した。
怒りも、寂しさも、会いたかった熱も、すべてが槍の軌道に載っている。
その先に、紅華の次の間合が見える。
一秒後。半歩先。
そこに、空白がある。
琥珀は、刀を握り直した。
拙い構えのまま、振りかぶるのではない。
未来の位置へ、刃を置く。
『——そこだ』
穂先が空を切り、紅華の体が半歩踏み込む。
その胸の前に、すでに琥珀の刀があった。
布が裂け、浅い紅が走る。
深手ではない。
なのに、紅華の動きが止まった。
未来に置かれた刃を、体が先に理解したような止まり方だった。
「……なに、今の」
膝が、折れる。
琥珀は刀を捨てるように手放し、倒れかける紅華を両腕で受け止めた。
同じ顔が、すぐ近くにある。
体温が、同じように熱い。
『……ごめん。
知らなかった。
同じ顔で、こんなに違う時間を生きてたなんて』
声が、泣いている。
止められない。
『会いたかったなんて、言えない。
だって、あなたのこと、今日まで知らなかったから。
でも——放っておけない。
同じ顔の、妹なんだから』
紅華の手が、琥珀の背に力なくかかる。
槍は、床に落ちたまま。
「……ばか。
斬っておいて、なに言ってるの」
『ばかでいい。
一緒に、歩こう。
もう、一人にしない』
彼岸花が、二人の足もとで静かに揺れている。
広間の端で、心桜が袖で目元を押さえ、菊乃は何も言わずに二人を見ていた。
紅華の額が、琥珀の肩に落ちる。
力は、もう入っていない。
敵意でも、拒絶でもない重さだった。




