第50話「双刃」
事実を聞いたあと、紅華は短く笑った。
「……生かすための選択、か。
いい話ね。でも、私の十六年は戻ってこない」
槍の石突が、床を叩く。
彼岸花が舞い、殺気が広間を満たす。
「話は終わった。
今度は、体で話す」
心桜が即座に刃を抜く。
『来る——』
その前に、琥珀が手を伸ばしていた。
『やめて。私が、出る』
『は? 琥珀、ダメ——』
『私に、言ってる。
同じ顔の、私に』
声は震えている。
なのに、足は前に出ていた。
心桜が引き止めようとして、菊乃に袖を掴まれる。
『止めるな』
『冗談でしょ。妹ちゃんが——』
『あいつの相手は、あいつの顔をした者だ。
今は、見ろ』
心桜は歯を食いしばり、刃を下ろさないまま下がる。
琥珀が、広間の中央へ歩いていく。
刀は、まだ拙い構えのままだ。
紅華は、それを見て目を細めた。
「……自分から来るの。双子の姉さん」
『……話を、聞きたい。でも、あなたが戦うなら』
「聞くだけじゃ足りないの。
私はここで、兵器として育てられた。
名前より先に、使い方を教えられた。
感情はノイズだって、何度も言われた」
槍が、水平に構わる。
「あなたは学校に行って、友達と笑って、普通に悩んでた。
私は人を切る練習をして、花で血を止めて、命令で眠った。
同じ顔なのに、中身が違いすぎる」
悲しみと怒りが、言葉の熱のまま飛んでくる。
琥珀はそれを正面から受ける。
黄色い残像が、視界の端で点滅する。
『……それでも、私はあなたを知らないまま生きてた。
ごめん、じゃ足りないのも、分かってる』
「足りないわ。
だから、ぶつける」
紅華が、地面を蹴った。
彼岸花が爆ぜ、槍が一直線に琥珀の胸を穿つ。
戦闘が、始まった。




