第49話「双つ」
沈黙を、紅華が先に割った。
「同じ顔して、同じ歳なのに。
あなたは学校に通って、普通の顔で生きていた。
私はここで、血を流して花を咲かせる訓練をさせられていた」
琥珀は、何も返せない。
槍の先が、自分を向いているわけではない。
なのに、言葉の方が深く刺さる。
「母親は、あなたを選んで逃がしたの?
それとも、私をここに残すって決めたの?」
問いが、広間に落ちる。
菊乃は黙って聞いている。
心桜は、笑みを完全に消したまま紅華を見ている。
琥珀は、自分の制服の名残も装束の袖も、急に薄っぺらく感じた。
『……そんなの、知らない』
琥珀の声は小さかった。
『私、何も知らなかった。
母親のことも、姉妹のことも』
「知らない、で済むならよかったのにね」
紅華の声に、毒がある。
なのに、完全な敵意だけでもない。
菊乃が、一歩前に出た。
『事実を話す。
お前が知るべきことだ』
紅華は槍を下ろさないが、遮らなかった。
『母親は、三人を逃した。
お前を連れて逃げることはできなかった。
長に見られ、侵食がかかっていた。
残したのは、捨てたのではない。
生かすための選択だった』
心桜が、低く息を吐く。
『……重い話、いきなりだね』
『今、話すしかない』
紅華の目が、揺れる。
怒りか、動揺か、判別できない。
「……つまり、私は影で、あなたは光だったってこと?」
自分で解釈するように、紅華が言った。
光と影を、最初に断言したのは誰でもなく、彼女自身だった。
琥珀は、その言葉を受け止めたまま、動けない。
同じ顔の妹が、自分を光と呼び、自分を影と呼んでいる。
知らなかった十六年が、一気に押し寄せてきていた。




