第45話「心輝」
押し込まれていた。
空間が歪むたび、間合が狂う。
菊乃の花弁は座標を取られ、心桜の刃は空を切り、琥珀は後ろに下がることしかできない。
『このままじゃ——』
心桜の声が、歪みに呑まれる。
アオイは淡々と手を振る。
次の斬撃が、三人の中心を貫こうとしていた。
——そのとき、琥珀の視界が、開けた。
黄色い残像が、線になる。
敵意の軌道。空間が歪むタイミング。
数秒先まで、一本の線として見える。
『……分かった』
声が出る。自分でも驚くほど、はっきりしていた。
『次、左が假。本物は右下。歪みは二回』
菊乃と心桜は、疑わなかった。
菊乃が右下へ領域を張り、心桜が假の軌道を無視して本物だけを刃で受ける。
アオイの斬撃が、初めて空を切った。
「……読む、か」
アオイの声に、初めてわずかな揺らぎがある。
『もう一回! 正面は假、真上から来る!』
指示が、戦闘のリズムになる。
菊乃が真上の歪みを花弁で固定し、心桜が隙間に踏み込む。
小太刀が、アオイの袖を浅く割った。
初めての、有効打だった。
琥珀の額から汗が落ちる。
頭は熱い。
なのに、線は消えずに残り続けている。
感情に流されず、意識して追っている。
『心輝の見』——名前は知らない。
ただ、自分の力だと、今は分かっていた。
アオイが、一歩下がる。
「三人の連携か。
……非効率を、効率に変えた」
『褒めてるの?』
心桜が、息を切らしながら笑う。
『どうでもいい。こっちは、勝ちに行くだけだ』
広間の空気が、再び歪む。
だが、三人の輪郭は、もう崩れていなかった。
琥珀の読みを軸に、菊乃が空間を押さえ、心桜が刃を届かせる。
勝機が、初めて手元に来ていた。




