第41話「残骸」
ウスズミの広間を離れ、通路はさらに下へ続いた。
壁の色が、灰から黒へ変わっていく。
管が増え、滴る液の匂いが甘く、腐っている。
足元に、枯れた花弁が積もっていた。
青も黒も、色を失い、灰色の粉になっている。
琥珀が、足を止める。
『……これ』
壁の窪みに、人の形があった。
動いていない。
ひび割れた肌。番号の札。
改造の途中で、止まったものだった。
心桜が、短く息を吐く。
『……失敗作、か』
『見るな、と言っても遅いな』
菊乃の声は平坦だった。
琥珀は袖で口を覆い、それでも目を離せない。
子供の靴を見たときと同じ感触が、胸の奥でふつふつと起きている。
『……また、こんなの』
『計画のためだ、と敵は言っていた。
失敗も、捨てられる』
『許されない』
声が、低い。
黄色い花弁が、足元に一枚だけ落ちた。
すぐに消える。
感情が、力に触れかけている。
心桜が、琥珀の肩に手を置く。
触れ方は軽い。止めない。一緒にいる印だけだ。
『分かるよ。
でも、今ここで爆発しても、あいつらは喜ぶだけだ』
『……はい』
琥珀は拳を握り、花を抑える。
怒りは消えない。
燃料にして、足を前に出す。
通路が開け、黒い花弁が壁一面に咲く広間に出た。
中央に、一人の女が立っている。
装束は整い、姿勢は優雅だ。
これまでの敵とも、ウスズミとも違う。
丁寧な目が、三人を値踏みするように撫でる。
「ようこそ。
花の血の方々」
声は柔らかく、笑みさえ含んでいる。
「私はコクラン。
四天王の一人です。
……特に、そちらの桜色の方に、興味がありまして」
視線が、心桜に固定された。
心桜が、刃に手をかける。
『……私に?』
「ええ。美しい方は、縛って飾りたくなりますので」
優雅な敵意が、広間に満ちた。




