第40話「忠告」
ウスズミは、しばらく動かなかった。
三人は距離を取り、次の通路へ足を向ける準備をしていた。
その背中に、低い声が落ちる。
「……待ちな」
振り返ると、ウスズミがゆっくりと起き上がっていた。
抵抗する様子はない。
武器も、花も、もう展開していない。
「……はは。マジで負けた」
腹を抱えるでもなく、ただ認めた声だった。
「本家の力、伊達じゃねえな。
お前強いよ。正直、面白かった」
心桜が刃を下ろさないまま、警戒の眼を向ける。
『……起き上がったのに、攻めてこないの』
「攻めねえよ。折れた腕で何するんだよ。
強さは認めてる。勝ったのはそっちだ」
ウスズミは三人を順に見渡した。
皮肉でも、敵意でもない目だった。
「忠告しておく。
この先にいる三人は、あたしなんかより強い。
特に——いや、言っても仕方ねえか。
覚悟だけはしとけ」
菊乃が、短く問う。
『四天王の、残りか』
「ああ。
あたしは一番下だ。上は、桁が違う」
それだけ言うと、ウスズミは壁に背を預けて座り込んだ。
追ってくる気配はない。
戦意が、本当に消えている。
琥珀は刀の柄を握ったまま、その横顔を見ていた。
敵が、勝った相手を讃える。
知らない形の終わり方だった。
菊乃は下り坂の方を見る。
『行くぞ』
『……はい』
三人は、ウスズミを残して広間を出る。
背中に、低い声が一度だけ届いた。
「死ぬなよ。
本家の花、もっと上で見たいからな」
通路に出たあと、心桜が低く呟く。
『……意外と、普通の人だったね。里のわりに』
『自我がある分、予測はしにくい。
次も、同じと思つな』
琥珀は一度だけ振り返り、すぐに前を向いた。
忠告の言葉が、胸の奥に残っている。
この先の三人は、より強い——。
足は、止めなかった。




