表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/58

第39話「整う」

灰色の棘が、連続で飛んでくる。

菊乃はそれをかわし続ける。

踏み込みを外し、間合をずらし、時折後ろへ下がる。

一見すると、押されているように見えた。

心桜が、琥珀を庇いながら叫ぶ。

『ねぇ、大丈夫なのそれ!』

『問題ない』

短い答えだけが返る。

ウスズミは笑いながら追い込む。

「逃げてばかりじゃ、つまんねえぞ!

花の血の長女、その程度か!」

棘の壁が正面から迫る。

菊乃はそれを横にすり抜け、また半歩下がる。

足元に、緑の花弁が音もなく増えていた。

一枚、二枚、十枚——。

戦闘の間中、彼女は領域の座標を静かに固定し続けていた。

琥珀の目が、それを捉える。

『……花弁、増えてる』

『空間を...測っているの?』

ウスズミの拳が、再び大きく振りかぶられる。

灰色の薔薇が爆ぜ、広間の半面を棘で埋め尽くす勢い。

その寸前、菊乃が足を止めた。

『準備は、整った』

次の瞬間、ウスズミの棘の軌道がすべて狂う。

花弁は空を切り、拳は虚を突き、踏み込みの軸が崩れる。

領域内の座標が、すべて菊乃の側に書き換えられていた。

「……あ?」

ウスズミの表情が、初めて固まる。

『【真翠菊】』

緑の花弁が一斉に刃へ変わり、ウスズミの武装を内側から剥がしていく。

棘は折れ、灰色の薔薇は座標を失って散る。

力押しのすべてが、空間の手の内で無力化された。

「……はは。マジかよ」

ウスズミは膝をついても、まだ笑っていた。

悔しさより、面白がる色が先に出ている。

「本家の力、伊達じゃねえな。

……子八根様に、少しは報せる価値あったか」

体が、前に倒れる。

意識は残っているが、もう立てない。

菊乃は花弁を収束させ、短く息を吐いた。

心桜が近づき、ウスズミを見下ろす。

『……生きてる』

『殺せ、とは言われていない。

動けなくすればいい』

琥珀は刀の柄を握ったまま、広間の中央を見ていた。

一瞬で形勢が逆転する様子を、また一つ目に焼き付けている。

姉の一人の戦い方は、派手ではない。

終わってから、初めて怖くなる種類だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ