第38話「灰薔」
下り坂が終わると、円形の広間が現れた。
壁は灰がかった花弁で覆われ、床には棘の痕跡が残っている。
中央に、一人の女が立っていた。
背は高く、装備は簡素だ。
派手さはない。
なのに、気配だけが重い。
これまでの敵と違い、目に感情がある。
女は三人を見て、面白そうに口の端を上げた。
「おお、やっと来たか。
知らせは聞いてたけど、三人揃ってるとはね」
心桜が刃を構える。
『四天王?』
「正解。
ウスズミだ。
子八根様の下で、腕を振るってる一人」
名乗る声に、誇示も卑下もない。
戦える相手が来た、という生の反応だった。
「花の血の三人組、か。
生け捕りで連れて来いって話だけど……正直、手応えがある方がいいんだよな。
抵抗してくれよ?」
菊乃が一歩、前に出る。
『望むところだ』
「いい答えだ。
じゃあ、折るところから始めるか」
ウスズミの腕から、灰色の薔薇が咲き広がる。
棘が体表を走り、花弁が刃のように立つ。
力押しの武装だ。
心桜の声に、緊張が混じる。
『……今までのと違う。中身がある』
『実行部隊とは、質が違う』
琥珀は後ろに下がり、刀の柄を握る。
黄色い残像は出ていない。
なのに、敵意の輪郭だけが、はっきりと見えていた。
ウスズミが、地面を蹴る。
「子八根様の命は命として、私は私で楽しむ。
どこまで持つか、見せてみろ」
棘を纏った拳が、直線で菊乃の顔を狙う。
菊乃は下がらない。
足も、花弁も、まだ動かしていないように見えた。
心桜が舌打ちをする。
『また、動かないの——』
言葉の途中で、灰色の棘が空を切った。
軌道が、わずかに外れている。
菊乃の足元に、いつの間にか緑の花弁が落ちていた。
『抵抗は、すでに始めている』
短い言葉と共に、領域が閉じ始めようとしていた。
ウスズミは、外れた自分の拳を見て、笑った。
「はは、いいじゃねえか。
本家本元の花の力か? 面白え」




