第4話「再触」
二度目は、別の場所だった。
心桜の行動範囲をさらに絞り、逃げ道の少ない路地を選ぶ。
再接触まで、さらに二日かかった。
狭い行き止まりで、二人は再び向かい合う。
心桜は最初から刃を向け、覆いの上からでも力を使える体勢を取っていた。
前回の倉庫とは違う。
笑いは薄い。
『しつこい女。何の用?
仕事の話じゃないのは、もう分かってる』
菊乃は、彼女の隠された眼の方を見た。
『【千眼桜】か……懐かしいものを見た』
心桜の動きが、ぴたりと止まる。
『は? 千眼? 桜? なにそれ?』
『貴様の持つ、瞳の能力の名だ。
覆っている、その下にある』
沈黙が落ちる。
風が路地を抜け、どこかで缶が転がる音がした。
菊乃は、続けた。
『16年ぶりか。妹の貴様と、またこうして会う時が来るとはな』
心桜は、刃を下ろさずに吹き出した。
『はあ? 何それ。初対面なのに妹扱い?』
『金も出す。話だけでも聞け』
心桜はしばらく菊乃を値踏みするように見ていた。
笑い方は軽いが、眼は笑っていない。
前回、魔眼も刃も通じなかった相手だ。
逃げても、また来るのは分かっている。
『……おもしろい女だね。
金も出るなら、まあ、聞いてやるよ』
刃を鞘に戻す音が、路地に小さく響いた。
レースの下の眼は、もう光っていない。
菊乃は短く頷く。
『場所を移す。人目のあるところは避ける』
心桜は肩をすくめると、先に歩き出した。
背中はまだ力を抜いていない。
信用していない。
ただ、話を聞くだけなら損はない、と判断しただけだった。
路地の出口で、心桜が一度だけ振り返る。
『で、姉さん候補。
名前は?』
『菊乃だ』
『心桜。まあ、知ってたみたいだけど』
名前を交換したところで、二人の距離はまだ遠いままだった。




