第34話「空洞」
石段は、予想より長かった。
壁を伝う湿気が袖に染み、足元の段差が時折崩れている。
青や黒の花弁が、壁の裂け目から生えている。
光はない。なのに花だけが、淡く色を保っていた。
やがて、段が終わった。
三人の前に、空洞が広がっていた。
里、と呼ぶには不自然だった。
天井は高く、人の手で削られた痕が残っている。
柱のように見える岩は、等間隔に並び、通路が複数の方向へ分岐している。
古い集落の家並ではなく、地下に作られた施設の内部に近かった。
心桜が、低く息を吐く。
『……これ、村?
工場みたいなんだけど』
『表面上は小さな集落に見せかけ、下にこれを広げている』
菊乃の声が、空洞に小さく反響する。
琥珀は刀の柄を握ったまま、天井を見上げた。
高い。
神社の参道からは想像もつかない広さだった。
『人が、住んでるんですか。こんなところに』
『住んでいる。戦力を置き、実験をしている。
敵が戻る先が、ここだ』
通路の先に、淡い灯りが見える。
火ではない。花の光か、人工の光源か。
壁には、パイプのような管が這い、ところどころで液が滴っていた。
甘い匂いと、鉄の匂いが、濃縮されて立ち込めている。
琥珀の肩が、また上がる。
『……嫌いな匂いです』
『我慢しろ。これから先も、同じだ』
心桜が、分岐する通路を指で示す。
『どっち行くの。案内板、ないし』
『下だ。
空気の流れと、敵の気配が、より深い方へ向いている』
三人は、右側の通路を選ぶ。
足元は石ではなく、打ち込まれた板と金属の混在だった。
歩幅を揃え、音を立てないように進む。
空洞の奥で、何かが金属を擦る音がした。
遠い。
まだ接触はしていない。
なのに、里の内部に足を踏み入れた実感だけが、三人の背中に冷たく残った。
表の山村ではない。
地下に広がる、人工の大空洞。
計画の本体は、この下にある。




