第33話「入口」
千眼桜の根元に、三人は立っていた。
枝は花をつけていない。
太い根が地表を這い、石灯籠の土台を抱えている。
その根と根の間に、不自然な隙間があった。
菊乃が膝をつき、花弁を一枚落とす。
緑の花は、隙間の奥で消えずに残った。
風ではない。下から吸い込まれていく。
『……ここだ』
根を両手で押し分けると、土と石で組まれた開口部が現れる。
人が一人、身をかがめて通れる幅。
開口部の先に、石段が続いている。
湿った段が、闇の中へまっすぐ落ちていた。
心桜が、隣に跪いて覗き込む。
『……階段、だね。本気で下に繋がってる』
琥珀も、根の間から下を見る。
冷たい空気が、顔に当たる。
鉄と花の匂いが、はっきりと上がってくる。
『……入りますか』
『入る』
菊乃が先に、根の間をくぐる。
石段に足をかけ、闇の中へ降りていく。
足音だけが、小さく返ってくる。
心桜が次に続く。
振り返り、琥珀に声のトーンを落として言った。
『無理しないで。
遅れてもいいから』
『……大丈夫です。行きます』
琥珀も、根の間をくぐり、石段へ足を下ろした。
頭上で、根が再び重なるように隙間を狭める。
表の光が、背中側で途切れる。
壁には古い根が這い、ところどころに青や黒の花弁が、光もないのに咲いている。
実在しない色が、地下でも道標のように続いていた。
菊乃の声が、前から短く届く。
『騒ぐな。
気配を、立てるな』
『分かってる』
『はい……』
三人の影が、石段の闇に溶ける。
神社の境内は、もう上の世界だった。
山奥の花は、足元の先にある。




