第30話「余波」
倒れた二人から距離を取り、三人は一度だけ足を止めた。
風が、黄色い花弁の残りを運んでいく。
琥珀の足元には、もう何もない。
なのに、袖の裏に残った感触だけが消えない。
心桜が、低く息を吐く。
『……子供を、ああいう風にする里なんだね』
『花の血を持たない者を、戦力に変えている。
敵が口にしていた「計画」と、繋がっているのだろう』
『最悪だよ。本当に』
いつもの軽さは、まだ戻っていない。
琥珀は刀の柄を握ったまま、地面を見ていた。
『私がついてこなければ、あの子たちも……』
『関係ない。
あれは、お前が来る前から行われていた』
菊乃の声は平坦だった。
慰めではない。事実の切り分けだ。
『私たちは、止める側に回る。
それ以外の選択は、もうない』
琥珀が、ゆっくりと顔を上げる。
『……はい。
止めたいです。
ああいうの、もう見たくない』
心桜が、琥珀の隣に並ぶ。
肩には触れない。距離だけを合わせる。
『じゃあ、行くしかないね。
歌の山の、奥まで』
『ああ』
三人は再び歩き出す。
小塩山の稜線が、木々の隙間から大きく見える。
空気の甘さと鉄の匂いが、さらに濃くなっていた。
道の脇に、青い花と黒い花が混在する。
実在しない色が、道標のように続いている。
琥珀は一度だけ、後ろを振り返った。
倒れた二人の姿は、もう見えない。
それでも、「こんな子供にまで」という言葉が、足を止めさせない燃料になっていた。
菊乃が、短く告げる。
『神社が見えたら、止まる。
入り口を確認してから動く』
『分かった』
『はい』
三人の影が、山の斜面に長く伸びる。
余波は、まだ胸の中にある。
なのに、方向だけは、もう迷っていなかった。




