第28話「鉤爪」
山の麓に差し掛かる直前、琥珀が立ち止まった。
『……来ます。近い』
言葉の終わりと同時に、道の左右から影が躍った。
二人組だった。
男と女。
どちらも体は小さく、顔にひび割れがある。
白い目。鉤爪のような金属が、両腕に固定されている。
「花の血……」
「回収……する」
声が、幼い。
体躯も、明らかに成人ではない。
琥珀の顔から、血の気が引いた。
『……子供』
心桜も、刃を握ったまま動けない。
笑いは消えている。
『……何これ。里のやつ、こんなのまで』
菊乃の眼が、細くなる。
質は高い。
だが、それより先に、外形が三人の足を止めていた。
「お母さんの……血」
女の方が、途切れ途切れに言う。
「花の部屋……に、帰れ」
「上の人が……待ってる」
命令を繰り返しているだけだ。
自我があるのかどうかさえ、分からない。
鉤爪が空を切り、距離が詰まる。
心桜が反射で刃を合わせ、金属音が山道に散った。
菊乃は琥珀を後ろに下げ、花弁を一枚だけ指に挟む。
『下がっていろ』
『でも、あの子たち——』
『敵だ。今は』
琥珀は刀の柄を握ったまま、動けない。
幼い輪郭。
ひび割れた頬。
白い目が、自分だけを見ている。
恐ろしさと、別の感情が同時に胸を衝く。
こんな子供にまで、手をかけている。
里が、何をしているのか。
その輪郭が、初めて血の通った形で迫ってきた。
鉤爪が再び振り上げられる。
三人の影が、砂利の上で短く交錯した。




