第26話「余韻」
白い影を残し、三人は道を外れた場所で足を止めた。
心桜は刃を収め、指の震えが止まるのを待っている。
琥珀は刀の柄に手を添えたまま、倒れた敵の方を見ないようにしていた。
菊乃だけが、西の闇を見据えている。
『血が、揃い始めている——か』
心桜が、低く繰り返す。
『さっきの、最後の言葉』
『ああ。大剣のやつも「血が必要」と言っていた。
今度は「揃い始めている」だ』
『私たちが、集まってるから』
『その可能性が高い』
琥珀が、小さく息を吸う。
『……三人揃ったら、もっと狙われるってことですか』
『狙いは、最初から三人だ。
揃ったことで、優先度が上がっただけかもしれない』
沈黙が落ちる。
夜風が葉を動かし、また止む。
心桜が、肩をすくめる。
『まあ、最初から逃げられない相手なんでしょ。
今さら一人欠けても、同じ』
『事実だ』
琥珀は膝を抱え、空を見る。
「揃い始めている」という言葉が、胸の奥に残っている。
自分がここにいること自体が、何かの条件を満たしてしまっている。
その実感が、怖かった。
——そのときだった。
琥珀の体が、ぴたりと止まる。
『……何か、来ます』
『方向は』
『まだ遠い。でも……敵意がある。
さっきのより、小さい。複数』
菊乃の眼が、細くなる。
『感知か』
『自分でも、よく分かりません。
ただ、嫌な感じがする』
心桜が刃に手をかける。
『また里のやつ?』
『質は、分からない。
近づいているのは確かだ』
三人は火を使わず、その場で身を低くする。
琥珀の指先が、わずかに白い。
黄色い残像は出ていない。
なのに、殺気の方向だけが、頭の中にぼんやりと浮かんでいた。
菊乃が、短く息を吐く。
『休めるうちに休め。
来るなら、来る』
『はい……』
琥珀は刀を引き寄せ、背を東屋の柱に預ける。
遠方の敵意は、まだ輪郭を持たない。
それでも、「何もない夜」ではなくなっていた。




