第22話「整理」
三人は、昼の休憩を兼ねて道の脇に座った。
木陰に入り、今ある手がかりを口に出して並べる。
紙も地図もない。
記憶と、昨夜までの言葉だけが頼りだった。
菊乃が、短く指を折る。
『一つ。母親の歌。「おしおのやまのやまおくに」』
『二つ。西の山々、という感触』
『三つ。謎の女が口にした。「桜の根元」「千の眼を持つ桜」』
心桜が、膝の上で指を鳴らす。
『血を求めてる、も入るね。
私たちが狙われてる理由』
『ああ。だが、場所の手がかりとしては前の三つだ』
琥珀は刀を横に置き、歌詞を口の中で復唱する。
『おしおのやま……千の眼の桜……』
『土地の人間に、聞いた方がいい』
菊乃が立ち上がる。
『歌に残る名前なら、どこかで知っている者がいる』
三人は次の集落で、短い時間だけ足を止めた。
老人に道を尋ね、山の名をいくつか挙げる。
その中に、「小塩」という言葉があった。
『……おしお』
琥珀が、小さく繰り返す。
『小塩山、おしおのやまとは恐らくこの事だろう
西の端にあるらしい』
心桜が、覆いのない方の眼を細める。
『歌と、一致した』
『ああ。方向は、ほぼ固まった』
『千の眼の桜は?』
『そこまでは、分からない。
山の麓に神社がある、という話だけは出た』
『神社か。鳥居の記憶とも、重なる』
三人は集落を出て、再び西へ向かう。
名前が一つ、地図の上に載った。
入り口まではまだ遠い。
それでも、「感触」だけだった道が、ようやく名前を持った道に変わっていた。
琥珀は歩きながら、小さく息を吐く。
『……少し、近づいた気がします』
『気のせいではない』
菊乃の答えは短かった。
小塩山の稜線が、前よりはっきりと見えてきていた。




