第19話「色花」
巨漢を残した道から、さらに西へ折れる。
木々の間隔が広くなり、足元に草が増えた。
空気の匂いが、街のものではなくなっている。
湿った土と、どこか甘い花の匂いが混じっていた。
心桜が、先に足を止める。
『……ちょっと待って』
『どうした』
『匂い』
風上から、季節外れの甘い匂いが流れてくる。
種類が特定できない。
心桜は覆いの下を、指で押さえるでもなく、ただ静止していた。
道の脇に、一輪だけ花が咲いていた。
青かった。
向日葵の形をしている。
なのに、色が青い。
実在しない組み合わせだった。
琥珀が、思わず足をすくめる。
『これ……向日葵、ですよね。なんで青いの』
菊乃は花に触れず、視線だけを落とす。
『里の影響だ。
計画が進んでいる、という話と一致する』
『あの巨漢が言ってた、血とか計画とか』
『ああ。外にまで、影響が漏れ始めている』
心桜は青い花から顔を上げなかった。
匂いが、記憶の底を掻く。
暗い地下。
誰かの足音。
置いていかれる感触。
花の甘い匂いと、鉄の匂いが混じっている。
『……また、来た』
『心桜?』
『何でもない。昔の、嫌なやつ』
笑って打ち消すが、声の軽さはいつもの半分しかない。
琥珀が心配そうに口を開きかけて、やめた。
今は聞かれる側ではない、と察したらしい。
三人は青い花を残して、再び歩き出す。
一本だけだった花が、しばらくすると道の先にも点在し始める。
青だけではない。
黒い花弁をつけたもの、灰がかった薔薇のようなもの。
どれも、本来あるべき色ではなかった。
琥珀は刀の柄に手を添えたまま、小さく呟く。
『……普通の山、じゃないんですね』
『最初から、普通ではない』
菊乃の答えは短かった。
西の稜線が、前より近くなっている。
歌の続きも、記憶の続きも、まだ途中だ。
それでも、方向だけはもう感触だけではなかった。




