第17話「巨刃」
山道に差し掛かる頃、空気の質が変わった。
虫の音が途切れ、風が止む。
琥珀が先に足を止める。
『……何か、来ます』
言葉の終わりと同時に、道の先の木々が折れた。
現れたのは、人の形をしていた。
だが、下級の刺客とは明らかに違う。
体躯は大きく、肌は石のようにひび割れ、白い目が三人を見据えている。
手にしているのは、人一人分はある大剣だった。
「花の血……」
声は低く、途切れる。
「回収……する。
子八根様の……命」
心桜が刃を抜く。
『……これ、前のと違う』
『上位だ。質が違う』
菊乃の声に、初めてわずかな張りがあった。
だが、足は動かない。
大剣を前にしても、彼女は一歩も下がらなかった。
巨漢が地面を蹴る。
距離が、一瞬で詰まる。
大剣が横一閃に振られ、道脇の木が根元から倒れた。
砂煙が舞い、琥珀が思わず後ずさる。
『っ……!』
心桜が琥珀の前に回る。
大剣が再び振り上げられる。
影が、三人の頭上を覆う。
それでも菊乃は動かない。
『ねぇってば。
なんで、何も抵抗しないの』
菊乃の足元に、いつの間にか緑の花弁が落ちている。
一枚、二枚。数は少ない。
だが、すでに座標は張られていた。
『抵抗?』
菊乃は、大剣の軌道を見たまま短く応じた。
『その必要はない。
事は、すでに終わったあとだ』
「三人……生け捕りで」
巨漢の言葉は短い。
命令を繰り返しているだけだ。
計画の詳細も、理由も語らない。
それでも、「生け捕り」という言葉だけが、三人の間に残った。
花弁が、静かに増えていく。
領域が、本格的に閉じ始めた。




