第14話「方針」
三人でいるのは、まだ二日目だった。
春の家から離れた、閑静な公園の隅。
街灯の光は届かず、ベンチの影だけが濃い。
琥珀は新しい装束の袖を折り返したまま、刀を膝の横に置いている。
持ち方すら、まだ決まっていない。
心桜が、欠伸を混じりに口を開く。
『で、これからどうするの。山の里に行くんでしょ?』
『ああ。だが、場所はまだ正確には分からない』
『はあ? 知らないの』
『断片しか残っていない。
西の山々。石のような門。夜道。それ以上は繋がらない』
菊乃の声は、いつものように平坦だった。
事実を並べているだけだ。
琥珀が、小さく手を上げる。
『私も……何も覚えていません。
普通に、ここで育っただけなので』
『知ってる』
心桜が、覆いのない方の眼で空を見る。
『私も花の匂いくらいだよ。
地図にはならないね』
『今あるのは、感触だけだ。
西へ向かう。山の気配が濃い方へ』
『感触頼りか。心もとないねえ』
『他に方法があれば、すでに使っている』
沈黙が落ちる。
風が木の葉を動かし、遠くで電車の音がする。
琥珀は刀の柄に触れ、すぐ手を離した。
冷たい。
自分のものではない感触が、まだ残っている。
『……見つかるんでしょうか。その里』
『見つける。
見つからなければ、向こうから来る』
菊乃の答えは短かった。
昨夜の刺客が、すでにその証明だった。
心桜が立ち上がり、肩を回す。
『まあ、座ってても始まらないし。
西へ行くんでしょ。行きましょうよ』
『今夜は休む。
明日、動く』
『慎重だね、あんた』
『失敗すれば、逃げられる。
貴様のときと同じだ』
心桜は薄く笑い、琥珀の方を見下ろす。
『妹ちゃんも、準備しときな。
刀、落とさないようにね』
『……努力します』
三人の影が、街灯の外で長く伸びている。
同じ方向を向くのは、ここからだった。
手がかりは、まだ感触だけだ。




