第12話「説明」
静かになった公園に、荒い呼吸だけが残る。
琥珀はベンチの脚に手をついたまま、自分の足を見ていた。
さっき、なぜ動いたのか分からない。
黄色い残像は、まだ完全には消えていない。
『……今の人たち、何?
なんで、私やおばさんを狙うの』
問いは、最初に菊乃へ向いた。
菊乃は、事実だけを並べる。
『山の里から来た実行部隊だ。
花の血筋を回収しろ、という命令を受けている。
母親の名は桔梗。
お前を含む娘たちを守るために、里に残ったと聞いている。
詳細は、まだ分からない。
だが、向こうはすでに動いている』
一拍置いて、菊乃は琥珀の足もとを見た。
『それと、さっきの回避だ。
あれは偶然ではない。
お前の力だ。
詳細は分からない。だが、危険を先に察知し、体が動いた。
花の血が、動き始めている』
琥珀の頭の中で、言葉が弾ける。
山の里。花の血筋。母親。回収。
そして、自分の力。
昨日まで持っていた日常の枠に、どれも収まりきらない。
『待って……母親が? 里が?
力なんて……私、普通の高校生で……』
声が途中で詰まる。
整理できない。
理解が、追いつかない。
春が、琥珀の肩に手を置いた。
その顔は、もう隠し立てする色を失っている。
「話す、というより……もう、話すしかない」
春は二人の姉を見ず、琥珀だけを見て言った。
「あなたのお母さんは、確かにあの方です。
私に預けたとき、『普通に育ててほしい』としか言わなかった。
能力のことは、かもしれない、とだけ。
私は母親の遠縁になる」
『おばさん……』
「嘘をついていた。ごめんなさい。
でも、あなたを巻き込みたくなかった」
春は、一度だけ強く息を吸う。
「琥珀。
あなたの未来は、あなたが決めなさい」
公園の灯りが、遠くで一つ点く。
琥珀は袋の紐を握ったまま、うつむいていた。
拒んでも、向こうから来る。
さっきの影は、自分を狙っていた。
そして、自分の体が、自分の知らないうちに動いた。
頭の中は、まだ整理できていない。
答えは、まだ出ない。
心桜が、刃を収めながら小さく息を吐く。
『選べ、ってほど簡単でもないか。妹ちゃん』
琥珀は、顔を上げなかった。
ただ、春の手の温度だけが、確かだった。




