表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/46

第9話

「さっきからうるさいんだよアンタたち! ちょっと待ちな!」


 振り向くと、馬に乗った、いかにも盗賊といったいでたちの女が、10人くらい追いかけてきていた。

 先頭を走っているお頭らしき赤髪の女が乗っているのは白い馬で、それ以外の仲間は黒っぽい馬が多い。


 全部、普通の馬?

 ユニコーン爆速旅団(ばくそくりょだん)のくせにユニコーンじゃない?

 じゃあこいつらは別口?


 混乱しかけたが、よく見ると先頭の白い馬の額には切り株のような突起物がある。

 角が折れた跡だ。


 間違いない。

 こいつらがユニコーン爆速旅団だ。


「こいつら、いつの間に着いてきてたんだ……!?」


「さっき通りすぎたデカイ岩のかげから出てきたんダゼ。きっとオレの走りを見て、いてもたってもいられなくなったんダゼ」


「気づいてたんなら言えよ! どう見てもあいつらが爆速旅団じゃねえか! お前ここまで何しにきたか覚えてねぇのか!?」


「フルスピードで走るためダゼ」


「違うわい!」


 ダメだ。こいつはスピードに酔うと、そこらの馬より馬鹿になっちまう。


「いいや、違わないゼ。あの女たちもきっとそうさ。なぁ、お前らもフルスピードで走りたいだけだろう!?」


「いや、そんなわけな……」


「そのとおり! よくわかってるじゃないかい。アンタいい脚してるよ。これは負けられないと思ってね……つい飛び出しちまった。勝負はもう始まってるってわけさ。わかるだろう!?」


「いや、だからわからね……」


「ああ、わかるゼ!」


 なんなんだよお前ら。俺だけ空気読めない奴みたいになってんじゃん。

 もう俺帰っていい?



 峠道を走り続けるブレイク。必死にしがみつく俺。

 そのすぐ後ろを追う爆速旅団の女ども。


「やべぇな。なんかあっちのほうが速くないか? このままだと追いつかれるぞ」


「それでこそ! 燃えるゼェ!」


 ブレイクは見た目がちょっとアレで、中身もちょっとアレだが、脚だけは速い。

 それなのに奴らは着いてくる。

 そこいらの馬には負けないと思っていたが、爆速旅団はかなり良い馬を集めているらしい。


 とくに先頭の角折ユニコーンはまだ余裕すらありそうだ。


 フルスピードで走りたいだけだとか言ってたけど、しょせん盗賊。捕まったらただではすまないだろう。

 なんとか逃げ切りたいが、ブレイクはすでにアクセルベタ踏み状態だろう。

 ここは俺の腕の見せどころか。


 俺は競馬界のレジェンド竹湯タケユタカシの生まれ変わり!


 ピシャンッとブレイクのケツをムチでしばいた。


「ア゛ァッ! ……ッスー……痛……いった……あー、もうこれ骨が折れたんじゃないかな。もう走れません。暴力はよくないですよ。本当によくないと思います」


「あっ、ミスった!」


 ブレイクは痛いのが嫌いなので、普通の馬とは逆に、ムチを入れれば入れるほど速度を落とす。すっかり忘れていた。

 減速し、一気に追いつかれそうになる。


 ムチが使えないとなると、もうこれしかないっ……!


『プッ』『プッ』『プッ』『ピーッ』


「!? ヒヒーンッ! きたゼェこれェ!」


「チッ、あと少しだったのに。まだ加速するのかい! アタイらも気合い入れてくよ!」


「「「おうっ!」」」


 そう、『週末のラッパ』だ。


 なぜか爆速旅団の連中まで加速してる気がするけど……まぁいい。


 ブレイクのケツを叩くつもりで、俺は週末のラッパのボタンをまた1つ押す。


『パラリラパラリラパラリラパラリラ!』


 音を聞いたとたん、さらにスピードをあげるブレイク。


 女盗賊たちを率いて先頭を走る俺たち。

 まるで暴走族のヘッドにでもなったような気分だ。


「ピヨってるやついるゥ!? いねぇよなァ!?」


「ピヨだってぇ? なに言ってるかわかんないけど、なんかムカつくねぇ。それにうるさいって言ってんだよさっきから! その妙な楽器をやめな!」


『パララリラリラリラー』


「なんだいそのもの悲しいメロディは! 調子狂うねぇ」


「これは……ゴッ〇ファーザー!?」


 なんなんだよこの暴走族シリーズは。

 しかもセンスが古いし。

 もっと最新の曲はないのか?


『パラパーパー パラパーパーパッパー パラパラパー パラパーラーパッパー』


「かっこいい曲じゃないかい。なのに、なぜか煽られてるような気分になるねぇ……ッ!」


「こ、これは……ッ! 名探偵コ〇ン!?」


 このラッパはあれか? 著作権の関係で販売中止になってゴミ箱に入れられたのか?

 なんて馬鹿なことを考えていると、後ろからまた声が上がる。


「だっ、団長っ! ウチの子たちじゃもう、ついて行けません!」


「チッ……! 馬をつぶすわけにはいかないからね。あんたたちは後からついてきな! あとはアタシがケリをつけるッ!」


 どうやら爆速旅団の団員たちがのる馬に限界がきたようだ。

 団長のユニコーン以外はがくんとスピードを落として離脱していく。


 あとは団長と俺の一騎打ちってところか。


「おい黒髪のアンタ! あそこに背の高い木があるのが見えるかい!?」


 女団長がそう叫んだ。

 数百メートル先のほう、峠をちょうど登り切ったあたりに、ひときわ背の高い木が見える。

 あれのことだろう。


「見えるけど、それがどうした!?」


「このままじゃらちがあかない! あの木まで先にたどり着けたら見逃してやるさね!」


「いいだろう! 約束だからな!」


 よっしゃぁ! このままいけば勝てる。

 ……勝てるよな?

 そういえば、さっきからブレイクが無言なんだが? 大丈夫なのか?


「おいっ、ブレイク! お前まだ走れるのかよ?」


「ブルルフッ……け、結構キツイんダゼ……ッ」


「おいおいマジかよっ!」


 ラッパはさんざん使ったし、もうこれ以上は効かないだろう。

 こうなったらなんでもいい。なにかないか……?


 そうだ、アレがある!


 俺は、ふところから『バキバキ皇帝』を取り出した。

 これは俺が使う予定だったのに……クソッ!


 だが、背に腹はかえられない。ここで、使うッ!


「おい、ブレイク! これを飲め。元気が出るぞ!」


「無茶、言うな、オレは、今、走ってるんダゼ! ボスが飲ませてくれ!」


 それはそうか。

 俺はブレイクの髪の毛をガシッとつかみ、口元へバキバキ皇帝のビンを差し出した。

 なんだか授乳プレイみたいで気持ち悪いな。

 ブレイクは長い舌を伸ばして、ビンの口をベロベロなめはじめた。


「うわぁっ、気持ちわるぅ! 普通に飲めや!」


「なかなか難しいんダゼ」


「ひゃぁっ! 俺の指だそれは! って、あぁ! 俺のバキバキ皇帝がぁ!」


 ブレイクに指をしゃぶられた気持ち悪さでとっさにビンを手放してしまった。


 ガシャンッ!


 ビンが割れる音がして、後ろを振り向くと、女団長がまたがるユニコーンの顔面がびちょびちょに濡れていた。


「ヒヒィン……」


「なッ! 卑怯だよアンタたち! 大丈夫かい、ナイスネーチャン!」


 ……あのユニコーン、ナイス姉ちゃんって名前なのか?

 どういう気持ちでその名前にした?


 ともかく、ユニコーンはバキバキ皇帝がかかった影響で失速した。

 卑怯くさいが負けたら死ぬんだ。

 悪いけどいまのうちに、ゴールまで駆け抜ける……!


「あとちょっとだ、頼む持ちこたえてくれブレイク」


「フブルルシュシュッ」


 ついに人語を話せなくなったか。

 まずいな。


 そういえばバキバキ皇帝をぶっかけたユニコーンはどうなった?

 あいつもオスなら、バキバキに……?


 と、その時、後ろから妙な音が聞こえた。


 バキッ……バキバキ……バキバキバキィッ!!


「いや、そんな音は鳴らんやろがい!」


 俺は恐怖半分、興味半分で後ろを振り返った。


 するとそこには、根本から折れていた角が綺麗に復活したユニコーンと、それを見て号泣する女団長の姿があった。


「ナイスネーチャンっ! アンタ……アンタ角が! はじめて会ったあの日みたいにビンビンだよぉっ!」


「そこがバキバキになるのかよ。っておい、なんか速くなってないか……!?」


「完全体となったナイスネーチャンなら負けるわけないさね! いっきにぶち抜くよ!」


 ユニコーンに完全体なんてのがあるのかはよくわからないが、実際ぐんぐんとスピードをあげてきており、開いていた差がどんどんと縮まっていった。


 おい……これ、負けるぜ?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ